Verilogによるデジタル回路設計!10ステップで基礎から学ぶ

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この記事では、プログラム(回路記述)の基礎知識を前提に話を進めています。

説明のためのコードや、サンプルコードもありますので、もちろん初心者でも理解できるように表現してあります。

基本的な知識があればカスタムコードを使って機能追加、目的を達成できるように作ってあります。

※この記事は、一般的にプロフェッショナルの指標とされる『実務経験10,000時間以上』を凌駕する現役のプログラマチームによって監修されています。

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はじめに

デジタル回路設計は、電子機器の基本的な仕組みを理解するための重要なステップです。

今回の記事では、Verilogというハードウェア記述言語を用いて、デジタル回路設計の基礎から応用までを学ぶことができます。

また、具体的なサンプルコードを交えて説明していくので、初心者の方でも理解しやすくなっています。

●Verilogとは

Verilogは、デジタルシステムの設計や検証を行うためのハードウェア記述言語(HDL)の一つです。

この言語を使うことで、デジタル回路の設計をソフトウェア上で行い、その挙動をシミュレーションすることが可能となります。

Verilogはその可読性と、さまざまなハードウェアの表現能力から、デジタル回路設計の分野で広く用いられています。

●デジタル回路設計の基礎

デジタル回路設計では、基本となるロジックゲート(AND、OR、NOTなど)を組み合わせて、複雑なデジタルシステムを作り上げていきます。

Verilogを用いると、これらのロジックゲートを直感的にコード化し、さらにそれらを組み合わせた大規模な回路も設計することが可能です。

○基本的なVerilogのコードとその説明

このコードでは、VerilogでANDゲートを表現する方法を紹介します。

この例では、入力AとBに対して論理積を計算し、結果を出力Yにアサインしています。

module and_gate (input A, B, output Y);
  assign Y = A & B;
endmodule

上記のコードでは、moduleキーワードを用いて新しいモジュールand_gateを定義しています。

このモジュールは入力としてAとBを持ち、出力としてYを持ちます。

assign文を用いて出力Yに対して入力AとBの論理積の結果をアサインしています。

●Verilogでのデジタル回路設計のステップ

次に、Verilogを使用して基本的なデジタル回路を設計するステップについて解説します。

ここでは、基本的な論理ゲートから複雑なデジタルシステムまで、10ステップで学んでいきましょう。

○ステップ1:Verilogでの基本的なANDゲート

まずは、Verilogで最も基本的なANDゲートを表現する方法から始めましょう。

下記のコードは、2つの入力AとBに対してAND操作を行い、その結果を出力Yにアサインするものです。

module and_gate(input A, B, output Y);
  assign Y = A & B;
endmodule

このコードを実行すると、入力AとBの両方が1の場合に限り、出力Yが1となります。

それ以外の場合は、出力Yは0となります。

これは、ANDゲートの基本的な動作を表しています。

○ステップ2:ORゲートとXORゲート

デジタル回路設計の基礎をVerilogで学ぶ次のステップとして、今回はORゲートとXORゲートを設計していきましょう。

これらのゲートは、デジタル回路設計において重要な役割を果たします。

まずは、ORゲートから見ていきましょう。

ORゲートは、2つの入力信号のうち少なくとも1つが真(1)であれば、出力が真(1)になるという特性を持つ論理ゲートです。

VerilogでORゲートを表現するコードを紹介します。

// ORゲートを表現するVerilogコード
module or_gate (input wire a, input wire b, output wire y);
    assign y = a | b;
endmodule

このコードでは、moduleキーワードを用いてVerilogモジュールを定義しています。

そして、inputキーワードを用いて2つの入力信号aとbを定義し、outputキーワードを用いて出力信号yを定義しています。

最後に、assign文を用いて、yがaとbの論理和(OR)になるように指定しています。

次に、XORゲートを見ていきましょう。

XORゲートは、2つの入力信号が異なる場合にのみ出力が真(1)になるという特性を持つ論理ゲートです。

VerilogでのXORゲートの設計を紹介します。

// XORゲートを表現するVerilogコード
module xor_gate (input wire a, input wire b, output wire y);
    assign y = a ^ b;
endmodule

このコードでも、Verilogモジュールを定義し、2つの入力信号aとbと1つの出力信号yを定義しています。

そして、assign文を用いて、yがaとbの排他的論理和(XOR)になるように指定しています。

これらのコードを実行すると、入力信号の組み合わせに対して、ORゲートとXORゲートがそれぞれ期待する出力信号を出すことが確認できます。

Verilogでの基本的な論理ゲートの設計はこれで完了です。

○ステップ3:NOTゲートとNANDゲート

今回のステップでは、デジタル回路設計における基本的な論理ゲートであるNOTゲートとNANDゲートについて解説します。

これらのゲートは、シンプルながらも他のより複雑なデジタルロジックの構築に必要不可欠な要素となります。

まず初めにNOTゲートから始めましょう。

NOTゲートは、入力が1のときに0を、入力が0のときに1を出力するゲートで、入力の論理反転を行う機能があります。

Verilogでは、NOTゲートは”~”演算子を用いて表現されます。

それでは、NOTゲートのVerilogコードの例を見てみましょう。

module not_gate(input wire a, output wire not_a);
  assign not_a = ~a;
endmodule

このコードでは、not_gateというモジュールを作成しています。

このモジュールでは、入力としてaというワイヤを受け取り、出力としてnot_aというワイヤを返します。

assignステートメントは、出力not_aに入力aの論理反転を割り当てる役割を果たします。

次にNANDゲートについて見てみましょう。

NANDゲートは2つの入力が両方とも1である場合にのみ0を出力し、それ以外の場合は1を出力します。

このNANDゲートはANDゲートの出力を反転したものと考えることができます。

VerilogでのNANDゲートのコードの例を紹介します。

module nand_gate(input wire a, input wire b, output wire nand_ab);
  assign nand_ab = ~(a & b);
endmodule

このコードでは、nand_gateというモジュールを作成しています。

このモジュールでは、入力としてabという2つのワイヤを受け取り、出力としてnand_abというワイヤを返します。

assignステートメントは、出力nand_abに入力abの論理ANDの結果を反転したものを割り当てます。

それぞれのゲートを単独で使用することもありますが、これらを組み合わせてより複雑なデジタルロジックを構築することも可能です。

その際には、ゲートの特性を理解していることが重要となります。

さて、ここでのサンプルコードはシミュレーターで動作します。

それぞれのゲートが期待通りに動作しているか確認するため、実際に試してみてください。

入力を変更しながら、それぞれのゲートの出力がどのように変化するか観察してみましょう。

○ステップ4:フリップフロップとレジスタ

デジタルロジックデザインの重要な要素としてフリップフロップとレジスタがあります。

これらは、データを一時的に格納するためのデバイスとして使用されます。

フリップフロップは1ビットのデータを格納することができ、レジスタは複数のフリップフロップを組み合わせて、複数ビットのデータを格納します。

Verilogでは、これらを簡単に表現することができます。

まず、フリップフロップの作成について見ていきましょう。

DフリップフロップのVerilogコードを紹介します。

module DFF (input wire D, input wire CLK, output reg Q);
    always @(posedge CLK) begin
        Q <= D;
    end
endmodule

このコードでは、Dフリップフロップを作成しています。

Dフリップフロップは、クロック信号の立ち上がりエッジ(posedge CLK)が来たときに、入力Dを出力Qに格納します。

つまり、クロックの立ち上がりエッジに同期してデータが更新されます。

次に、レジスタの作成について見ていきましょう。

8ビットレジスタのVerilogコードを紹介します。

module Reg8bit (input wire [7:0] D, input wire CLK, output reg [7:0] Q);
    always @(posedge CLK) begin
        Q <= D;
    end
endmodule

このコードでは、8ビットのレジスタを作成しています。

レジスタもフリップフロップと同様に、クロックの立ち上がりエッジに同期してデータが更新されます。

しかし、レジスタは8ビットのデータを同時に格納することができます。

これらのフリップフロップとレジスタは、デジタルロジックデザインにおいて非常に重要です。

特に、複雑な回路を設計する際には、これらをうまく使い分けることが求められます。

フリップフロップとレジスタの設計が終わったら、それらを実際にシミュレートして動作を確認しましょう。

シミュレーションの結果は、クロックの立ち上がりエッジでDの値がQに反映されることを確認することができます。

○ステップ5:カウンタとタイマ

デジタル回路設計の過程で欠かすことができない要素に、カウンタとタイマがあります。

これらは、回路内で時間を計測したり、特定の事象の回数を数えたりするために使用されます。

まず、カウンタについて詳しく見ていきましょう。

カウンタは、クロック信号のエッジ(立ち上がりエッジまたは立ち下がりエッジ)ごとに値を増加または減少させるデジタル回路です。

Verilogでは、次のような形でカウンタを実装することができます。

module counter(
  input wire clk,
  input wire reset,
  output reg [7:0] count
);
  always @(posedge clk or posedge reset) begin
    if (reset) count <= 8'd0;  // resetが立ち上がったらカウンタをリセット
    else count <= count + 1;  // それ以外はカウンタを増やす
  end
endmodule

このコードでは8ビットのカウンタを作成しています。カウンタはクロック信号の立ち上がりエッジごとに値を1つ増加させます。

ただし、リセット信号が立ち上がった時はカウンタの値が0にリセットされます。

続いて、タイマについて見ていきましょう。

タイマは特定の時間間隔ごとに一連の動作を制御するためのデバイスです。

下記のコードは、特定の期間が経過したらフラグを立てるシンプルなタイマのVerilogコードです。

module timer(
  input wire clk,
  output reg done
);
  reg [31:0] count;  // 32ビットのカウンタ
  always @(posedge clk) begin
    if(count == 32'd10000000) begin  // カウンタが10000000に達したら
      done <= 1;  // doneを1にする
    end else begin
      count <= count + 1;  // それ以外はカウンタを増やす
    end
  end
endmodule

このコードでは32ビットのカウンタを使用しています。

カウンタの値が10000000に達したら、doneフラグを立てます。それ以外の場合はカウンタの値を増やし続けます。

Verilogでカウンタやタイマを使用することで、時間依存の動作を制御したり、特定の動作の回数をカウントしたりすることが可能になります。

これらの要素はデジタル回路設計における基本的な構成要素であり、実際の設計プロジェクトでも頻繁に利用されます。

○ステップ6:デコーダとエンコーダ

デジタル回路設計の次なるステップでは、デコーダとエンコーダを詳しく見ていきましょう。

これらのコンポーネントはデジタル信号の変換に使われ、データの送受信や情報の処理において重要な役割を果たします。

デコーダとは、1つの入力信号を複数の出力信号に変換するデバイスで、特定の信号が選択されると、それに対応する出力ラインがアクティブになります。

一方、エンコーダはその逆の動作を行います。すなわち、複数の入力信号から1つの出力信号を生成します。

Verilogを用いてこれらを実装する方法を見ていきましょう。

まずは、2つの入力から4つの出力を生成する2-4デコーダの例を見てみましょう。

// 2-4デコーダのVerilogコード
module decoder2to4(input [1:0] a, output [3:0] y);

  assign y = 1 << a;

endmodule

このコードでは、2ビットの入力信号aを使用して4ビットの出力信号yを生成しています。

assign文はyの各ビットを入力aに基づいて設定します。

特に、シフト演算子'<<‘は1を左にaビットシフトさせることで、aの値に対応するyのビットがアクティブになります。

次に、4つの入力から2つの出力を生成する4-2エンコーダの例を見てみましょう。

// 4-2エンコーダのVerilogコード
module encoder4to2(input [3:0] a, output [1:0] y);

  always @(a) begin
    case(a)
      4'b0001: y = 2'b00;
      4'b0010: y = 2'b01;
      4'b0100: y = 2'b10;
      4'b1000: y = 2'b11;
      default: y = 2'b00;
    endcase
  end

endmodule

このコードでは、4ビットの入力信号aを2ビットの出力信号yに変換しています。

always文とcase文を使用することで、入力信号aの特定のパターンに対応する出力信号yを設定します。

たとえば、入力信号が’0010’の場合、出力信号は’01’になります。

これらのコード例を通じて、Verilogを使ってデコーダやエンコーダを実装する基本的な考え方を理解できたことでしょう。

これらのデバイスはデジタルシステム設計の多くの部分で使用されるため、その動作を理解することは重要です。

○ステップ7:マルチプレクサとデマルチプレクサ

Verilogでのデジタル回路設計の学習が進みましたね。

ここでは、マルチプレクサとデマルチプレクサの設計について取り組みます。

マルチプレクサは複数の入力信号から一つを選択し、その選択された入力信号を出力するデジタル回路です。

一方、デマルチプレクサは一つの入力信号を複数の出力路に振り分ける回路です。

これらはデジタルシステムで頻繁に使われるため、しっかりと理解しておきましょう。

まず、2:1 マルチプレクサのVerilogコードを見ていきます。

この例では、Verilogのalways文とif文を使って、セレクト信号によってどの入力信号を出力するかを制御しています。

// 2:1 マルチプレクサ
module mux2to1 (
  input wire a, // 入力1
  input wire b, // 入力2
  input wire sel, // セレクト信号
  output wire out // 出力
);
  always @* begin
    if (sel) // セレクト信号が1のとき
      out = b; // 入力2を出力
    else // セレクト信号が0のとき
      out = a; // 入力1を出力
  end
endmodule

このコードを実行すると、セレクト信号selが1の場合は入力bが出力され、セレクト信号selが0の場合は入力aが出力されます。

それぞれの入力信号が切り替えられることを確認できます。

次に、1:2 デマルチプレクサのVerilogコードを見てみましょう。

こちらも、Verilogのalways文とif文を使って、セレクト信号によって出力信号を切り替えます。

// 1:2 デマルチプレクサ
module demux1to2 (
  input wire d, // 入力
  input wire sel, // セレクト信号
  output wire q0, // 出力1
  output wire q1 // 出力2
);
  always @* begin
    if (sel) // セレクト信号が1のとき
      q1 = d; // 入力を出力2に出力
    else // セレクト信号が0のとき
      q0 = d; // 入力を出力1に出力
  end
endmodule

このコードを実行すると、セレクト信号selが1の場合は入力信号dが出力q1に振り分けられ、セレクト信号selが0の場合は入力信号dが出力q0に振り分けられます。

出力が適切に切り替わることを確認できます。

これらのコードは基本的なマルチプレクサとデマルチプレクサを表現していますが、入力信号や出力信号の数を増やすことで、より複雑なマルチプレクサやデマルチプレクサを設計することができます。

Verilogの利点は、このような複雑な回路も比較的簡単に記述できる点にあります。

○ステップ8:アダーとサブトラクタ

デジタルロジック回路において重要な要素の一つに、アダー(加算器)とサブトラクタ(減算器)があります。

これらは基本的な算術演算を行うハードウェアコンポーネントで、コンピュータシステムの中心的な役割を果たします。

Verilogを使ってこれらを設計する方法を見ていきましょう。

まずはアダーから始めます。

ここでは、最も単純な形のアダーであるハーフアダーとフルアダーを作成します。

ハーフアダーは2つの1ビット二進数を足すための回路で、和(sum)と桁上げ(carry)の2つの出力を持ちます。

Verilogを用いてハーフアダーを設計するサンプルコードを紹介します。

module half_adder(input a, b, output sum, carry);
    // XORゲートによる和の計算
    assign sum = a ^ b;
    // ANDゲートによる桁上げの計算
    assign carry = a & b;
endmodule

このコードでは、入力値abを用いて和sumと桁上げcarryを計算します。

和は入力値間の排他的論理和(XOR)で、桁上げは論理積(AND)により求めます。

次に、フルアダーを設計してみましょう。

フルアダーは3つの1ビット二進数を加算する回路で、2つの入力値に加えて桁上げ入力(carry-in)を持ちます。

フルアダーを設計するVerilogのサンプルコードを紹介します。

module full_adder(input a, b, cin, output sum, cout);
    wire s, c1, c2;
    // ハーフアダーの再利用
    half_adder ha1(a, b, s, c1);
    half_adder ha2(s, cin, sum, c2);
    // ORゲートによる桁上げ出力の計算
    assign cout = c1 | c2;
endmodule

このコードでは、2つのハーフアダーha1ha2を組み合わせてフルアダーを実装しています。

最初のハーフアダーha1abを入力とし、2番目のハーフアダーha2ha1の和sと桁上げ入力cinを入力とします。

また、桁上げ出力coutは2つのハーフアダーの桁上げc1c2の論理和(OR)で計算されます。

続いてサブトラクタを設計します。

ハーフサブトラクタとフルサブトラクタの2つを作成します。

ハーフサブトラクタは2つの1ビット二進数を減算する回路で、差(diff)と借り(borrow)の2つの出力を持ちます。

Verilogを用いてハーフサブトラクタを設計するサンプルコードを紹介します。

module half_subtractor(input a, b, output diff, borrow);
    // XORゲートによる差の計算
    assign diff = a ^ b;
    // 借りの計算
    assign borrow = ~a & b;
endmodule

このコードでは、入力値abを用いて差diffと借りborrowを計算します。

差は入力値間の排他的論理和(XOR)で、借りはbからaへの借りが発生する条件を表す論理式~a & bにより求めます。

この論理式は、aが0(負)でbが1(正)の場合に真(1)となり、それ以外の場合に偽(0)となります。

つまり、引かれる数aが小さい場合に借りが発生することを表現しています。

フルサブトラクタは3つの1ビット二進数を減算する回路で、2つの入力値に加えて借り入力(borrow-in)を持ちます。

フルアダーと同様に、2つのハーフサブトラクタを組み合わせて設計することができます。

フルサブトラクタを設計するVerilogのサンプルコードを紹介します。

module full_subtractor(input a, b, bin, output diff, bout);
    wire d, b1, b2;
    // ハーフサブトラクタの再利用
    half_subtractor hs1(a, b, d, b1);
    half_subtractor hs2(d, bin, diff, b2);
    // ORゲートによる借り出力の計算
    assign bout = b1 | b2;
endmodule

このコードでは、2つのハーフサブトラクタhs1hs2を組み合わせてフルサブトラクタを実装しています。

最初のハーフサブトラクタhs1abを入力とし、2番目のハーフサブトラクタhs2hs1の差dと借り入力binを入力とします。

また、借り出力boutは2つのハーフサブトラクタの借りb1とb2の論理和(OR)で計算されます。

○ステップ9:RAMとROMの設計

次のステップでは、メモリ機能を持つ回路、つまりRAM (Random Access Memory)とROM (Read-Only Memory)の設計について解説します。

これらは、データを一時的に保存するための機構を提供する重要なコンポーネントです。

まずはRAMから始めます。

RAMは読み書き可能なメモリで、データは電源がオフになると失われます。

RAMの最もシンプルな形は1ビットRAMで、これは1ビットのデータを保存することができます。

Verilogで1ビットRAMを設計するサンプルコードを紹介します。

module ram_1bit(input clk, input reset, input we, input d, output reg q);
    // リセット信号がアクティブの場合は出力を0に
    always @(posedge clk or posedge reset) 
        if (reset)
            q <= 0;
        // 書き込みが有効な場合はデータを保存
        else if (we)
            q <= d;
endmodule

このコードでは、入力信号clk(クロック)、reset(リセット)、we(書き込み許可)、d(データ)を用いて出力q(保存データ)を制御します。

リセット信号がアクティブ(1)になると、出力qは0にリセットされます。

それ以外の場合で書き込み許可weがアクティブになると、入力データdが出力qに保存されます。

つまり、リセットが優先され、それ以外の状態では書き込み許可があるときのみデータを保存する仕組みです。

このコードを実行すると、resetを1にすると出力qが0にリセットされ、resetが0でweが1になると、入力データdが出力qに反映されます。

そのため、resetweの制御により、任意のタイミングでデータの書き込みと消去が可能な1ビットRAMを構成できます。

次に、ROMの設計に進みます。

ROMは読み取り専用のメモリで、一度データを保存するとそれが変更不可能な特性を持っています。

Verilogを使った2ビットのアドレスと4ビットのデータを持つ簡単なROMを設計するサンプルコードを紹介します。

module rom_4x4(input [1:0] addr, output [3:0] data);
    // 2ビットのアドレスで選択される4ビットのデータ
    assign data = addr == 2'b00 ? 4'b0001 :
                  addr == 2'b01 ? 4'b0010 :
                  addr == 2'b10 ? 4'b0100 :
                  addr == 2'b11 ? 4'b1000 :
                  4'bxxxx;
endmodule

このコードでは、2ビットのアドレス入力addrを使って4ビットのデータ出力dataを選択します。

アドレスaddr2'b00ならば4'b00012'b01ならば4'b00102'b10ならば4'b01002'b11ならば4'b1000というように、異なるアドレスで異なるデータを出力します。

ここで使用している4'bxxxxは、アドレスが定義された範囲外である場合のデフォルト値です。

このコードを実行すると、入力アドレスaddrに対応するデータが出力dataから出力されます。

例えば、addr2'b10のとき、出力データdata4'b0100となります。

○ステップ10:CPUの設計

デジタル回路設計の旅路も、いよいよ最後の大きなステップ、CPUの設計に到達しました。

CPU (Central Processing Unit)は、コンピュータの心臓部とも言える部分で、プログラム命令を読み出し、解釈し、実行する役割を果たします。

このステップでは、最小限の機能を持ったシンプルなCPUをVerilogで設計する方法を見ていきましょう。

このシンプルなCPUは、命令フェッチ(命令の取得)、命令デコード(命令の解釈)、命令実行(解釈した命令の適用)の3つの基本的なステップを持っています。

このCPUは1ビットの命令を扱い、0ならNOP(何もしない)、1ならFLIP(フリップフロップの値を反転する)という2つの命令をサポートしています。

このCPUの設計を行うVerilogのコードを紹介します。

module cpu(input wire clk, input wire reset, output reg q);
    reg [1:0] pc; // プログラムカウンタ
    reg instruction; // 命令レジスタ
    wire [1:0] rom_addr;
    assign rom_addr = reset ? 2'b00 : pc;

    // 命令ROM
    rom_2x1 instruction_rom(.addr(rom_addr), .data(instruction));

    // 命令実行
    always @(posedge clk or posedge reset)
        if (reset)
            begin
                pc <= 2'b00; // プログラムカウンタをリセット
                q <= 1'b0; // フリップフロップをリセット
            end
        else
            begin
                pc <= pc + 1; // プログラムカウンタをインクリメント
                if (instruction) q <= ~q; // FLIP命令の場合、フリップフロップを反転
            end
endmodule

このコードでは、clk(クロック)とreset(リセット)を入力信号、q(フリップフロップの出力)を出力信号とします。

プログラムカウンタpcと命令レジスタinstructionはレジスタ(登録器)で、それぞれプログラムの実行位置と実行すべき命令を保持します。

rom_addrはROMのアドレス入力で、リセットがアクティブの場合は2'b00を、それ以外の場合はプログラムカウンタpcの値を割り当てます。

命令ROMは、以前に設計したrom_2x1モジュールを使用しています。

ROMのアドレス入力addrにはrom_addrを、データ出力dataには命令レジスタinstructionを接続しています。

命令実行部分では、クロックの立ち上がりエッジまたはリセットの立ち上がりエッジをトリガーに動作します。

リセットがアクティブな場合は、プログラムカウンタとフリップフロップをリセットします。

それ以外の場合は、プログラムカウンタをインクリメントして次の命令へ進み、命令がFLIP(1)の場合はフリップフロップの値を反転します。

このCPUの動作を確認するためには、実際に命令を設定したROMを用意する必要があります。

2つの命令(NOPとFLIP)を交互に繰り返すシンプルなプログラムを表現したROMの設計コードを紹介します。

module rom_2x1(input [1:0] addr, output reg data);
    always @(*) 
        data = addr[0];
endmodule

このROMは、アドレスaddrの下位ビット(addr[0])をデータとして出力します。

つまり、アドレスが偶数の場合はNOP(0)、奇数の場合はFLIP(1)を出力するプログラムとなります。

このCPUとROMの設計コードを組み合わせてシミュレーションを実行すると、NOPとFLIPが交互に実行され、フリップフロップの出力が0と1を交互に反転することが確認できます。

●注意点と対処法

Verilogによるデジタル回路設計では、少しの間違いが大きな問題を引き起こす可能性があります。

注意しなければならない重要なポイントをいくつか挙げてみましょう。

①コンパイラ指令

Verilogではコンパイラ指令を使って特定の行や範囲を無視させることができます。

これはデバッグ時に非常に便利ですが、注意しなければならないのはこれらの指令がコードの他の部分に影響を及ぼさないようにすることです。

// コンパイラ指令によるコメントアウト
// `ifdef DEBUG
//   initial $display("Debugging");
// `endif

上記のサンプルコードでは、DEBUGが定義されている場合にのみ”Debugging”と表示します。

しかし、DEBUGが定義されていない場合、この行は無視されます。

この機能は非常に便利ですが、一部のコードを意図的に無視するために使用される場合、その影響を十分に理解していることが重要です。

②デッドコード

デッドコードとは、決して実行されないコードのことを指します。

Verilogでは、一部のコードがデッドコードになっていることがあります。

例えば、if文の条件が常に偽である場合などです。

if (0)
  begin
    // この範囲はデッドコードです
  end

この例では、条件が常に0(偽)なので、if文の中身は実行されません。

このようなデッドコードは、デバッグや保守性の観点から避けるべきです。

③ブロッキング代入とノンブロッキング代入

Verilogでは、ブロッキング代入(=)とノンブロッキング代入(<=)の2種類の代入があります。

これらの違いを理解し、正しく使い分けることが重要です。

ブロッキング代入は、次の代入が行われる前に完了する必要があります。

これは、順序依存性を持つコードで使用されます。

integer a, b;
a = 1; // この代入が完了するまで次の行には進まない
b = a; // aの値(この場合は1)がbに代入される

一方、ノンブロッキング代入は、全ての右辺の評価が終わってから左辺に代入されます。

これは、順序依存性がない、つまり順序によって結果が変わらないコードで使用されます。

integer a, b;
a <= 1; // この代入が次の行の実行を阻害することはない
b <= a; // この行は上の行が終了するのを待たずに実行される

このような違いを理解しておくことで、期待しない動作を防ぐことができます。

●Verilogのカスタマイズ方法

Verilogでのデジタル回路設計では、一旦基本的な部品を作成すると、それらを組み合わせて更に複雑な回路を設計することができます。

これはいわばブロックを積み上げるようなもので、自分だけのオリジナルなデジタル回路を作ることができます。

たとえば、先ほどまでに学んだ基本的なゲートから複雑なCPUまでの部品を組み合わせて、自分だけのカスタムCPUを設計することが可能です。

下記のコードは、自分だけのカスタムCPUの一部を作る例です。

module CustomCPU (input CLK, input [7:0] IN, output reg [7:0] OUT);
   // 内部レジスタ
   reg [7:0] A, B;

   // クロックが立ち上がった時に動作する
   always @(posedge CLK) begin
      A <= IN;      // 入力をAに保持
      B <= A + 1;   // Aの値に1を足したものをBに保持
      OUT <= B;     // 出力にはBの値を出力
   end
endmodule

このコードでは、8ビットの入力INを受け取り、それを内部レジスタAに保持します。

次に、Aの値に1を加えたものをBに保持し、その結果を出力OUTに設定します。

この処理はクロックの立ち上がりで行われます。

このコードの実行結果として、入力の値に1を加えた結果が出力として得られます。

それは、例えば、入力が00000001(2進数で1)だった場合、出力は00000010(2進数で2)となります。

また、入力が11111111(2進数で255)だった場合、出力は00000000(2進数で0、1を加えるとオーバーフローするため)となります。

こうしたカスタム化は、独自のデジタル回路を作成したい場合や、特定の問題に対して最適な回路を設計したい場合に有用です。

例えば、特定のアルゴリズムを高速化したい場合、そのアルゴリズムに特化したデジタル回路を設計することで高速化を図ることが可能です。

ただし、一般的には、複雑な回路を設計する際はモジュール化を進めて設計を行うことが一般的です。

モジュール化により、全体の設計が容易になり、再利用やテストも容易になります。

また、階層的な設計を行うことで、上位のモジュールが下位のモジュールの内部詳細を気にせずに設計を行うことができます。

そのため、モジュール化の考え方を理解し、効果的に利用することが、Verilogでのデジタル回路設計を更に進めるための重要なステップとなります。

まとめ

本記事では、Verilogを使ったデジタル回路設計の基本から詳細な使い方、応用例までを理解し、実践できるようになることを目指しました。

Verilogによる基本的なデジタル回路の設計から始め、基本的なゲートからCPUまでの各種デジタル部品の設計方法を紹介してきました。

また、注意点と対処法についても学び、実際にデジタル回路を設計する際の可能性や注意点を理解しました。

さらに、Verilogを使用して自分だけのオリジナルなデジタル回路を設計する方法についても触れました。

これらの知識を基に、あなた自身でデジタル回路を設計し、シミュレートする能力が身につくことを願っています。

未来のデジタル回路設計者として、あなたの活躍を期待しています。