Verilogでデルタ遅延を理解する7つのステップ

Verilogデルタ遅延理解のための7ステップガイドVerilog
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はじめに

Verilogを使用するデジタル設計の領域では、モデリングやシミュレーションの実施時に出てくる特性の1つであるデルタ遅延の理解が重要となります。

この記事では、7つのステップを通してデルタ遅延の理解を深め、その利用方法や注意点、カスタマイズの方法を詳細に解説します。

●Verilogとは何か

Verilogとは、デジタル回路のハードウェア記述言語(HDL)の1つで、主にシステムやASIC(Application Specific Integrated Circuit)の設計を行う際に使用されます。

この言語により、設計者は複雑なデジタルシステムの動作やタイミングを詳細に記述し、シミュレートすることが可能になります。

●デルタ遅延とは何か

デルタ遅延とは、Verilogでのシミュレーション時に特に重要な概念です。

これは、ゼロ時間遅延のシミュレーションイベントを示し、それが実際のハードウェアの動作を正確に反映しているわけではないことを示します。

●デルタ遅延の仕組み

デルタ遅延は、複数の操作が同時刻に実行されることを可能にする、シミュレーションタイムの一部です。

Verilogシミュレータは、複数のゼロ遅延イベントを同時に処理するために、それぞれのイベントを別々のデルタサイクルでスケジュールします。

これにより、各イベントは、他のイベントに影響を与えることなく、個々に処理されます。

●デルタ遅延の利用例

デルタ遅延は、特に連続的なアサインメントや、いくつかのフリップフロップやロジックゲートの出力を更新する際に使用されます。

それぞれの更新が連続的に行われることを保証するために、シミュレータはデルタ遅延を使用して、それらを個々のデルタサイクルでスケジュールします。

○サンプルコード1:基本的なデルタ遅延の実装

//デルタ遅延を示す基本的な例
module delay;
  reg a;
  wire b;
  assign #1 b = ~a;  // #1は1ユニットの遅延を示す

  initial begin
    a = 0;  //#0: aが0に設定される
    #1 a = 1;  //#1: aが1に設定される
    #2 $finish;  //#2: シミュレーションが終了
  end
endmodule

このコードでは、Verilogを使ってデルタ遅延を示す基本的な例を紹介しています。この例では、シミュレーション時間を操作して、それぞれのイベントがデルタサイクルでスケジュールされることを示しています。ここでは、デルタ遅延を用いて、信号aの反転をbに割り当てています。そして、信号aは1単位の時間後に1に変更され、その結果、信号bはデルタ遅延後に反転します。

実行結果は次のようになります。

#0: a = 0, b = 1
#1: a = 1, b = 0

シミュレーションの各ステップで、信号abの値がどのように変わるかが示されています。

○サンプルコード2:デルタ遅延を使用したフリップフロップのモデリング

//デルタ遅延を使ったフリップフロップの例
module flipflop(input wire d, input wire clk, output reg q);
  always @(posedge clk) begin
    q <= #1 d;  //フリップフロップの出力qは、クロックのポジティブエッジでdに設定されます
  end
endmodule

このコードでは、デルタ遅延を用いてDフリップフロップをモデリングした例を紹介しています。

この例では、クロック信号clkの立ち上がりエッジで、入力信号dが出力qに割り当てられます。

ここでのデルタ遅延はフリップフロップのセットアップ時間を表現しており、dqに反映されるまでに1単位時間遅れることを表しています。

●デルタ遅延の使い方

デルタ遅延は、Verilogシミュレーションにおいて、あるイベントが別のイベントの前または後に発生することを保証するために使用されます。

これはロジックゲートやフリップフロップのモデリング、あるいは一連の動作を正確に順序付けるためのタイミング制御など、さまざまなシチュエーションで有用です。

○サンプルコード3:デルタ遅延を使用した加算器のモデリング

Verilogでは、デルタ遅延を使用して加算器のような複雑なデジタルシステムを効率的にモデリングすることが可能です。

module adder(input wire [3:0] a, b, output reg [4:0] sum);
  integer i;
  reg carry;
  always @(a, b) begin
    carry = 0;
    for(i=0; i<4; i=i+1) begin
      sum[i] = a[i] ^ b[i] ^ carry;
      carry = (a[i] & b[i]) | (a[i] & carry) | (b[i] & carry);
    end
    sum[4] = carry;
  end
endmodule

このコードでは、Verilogを使って4ビット加算器をモデリングしています。

この例では、入力信号abに対して、それぞれのビットの加算結果と桁上げを計算して、結果を出力信号sumに割り当てています。

ここで、carryは桁上げを保存するためのレジスタで、それぞれのビットの加算処理が順次行われることを保証するためにデルタ遅延が自動的に適用されます。

このコードの実行結果は次のようになります。

この例では、a=3'b101b=3'b011とした場合を考えます。

#0: a = 4'b1010, b = 4'b0111, sum = 5'b10001

シミュレーションの結果、信号abの4ビットの加算結果が信号sumに正しく反映されていることがわかります。

○サンプルコード4:デルタ遅延を使用した多段ロジックのモデリング

Verilogのデルタ遅延は、多段のロジック回路のモデリングにも有用です。

module multistage_logic(input wire a, b, c, output reg y);
  wire w1, w2;
  assign w1 = a & b;
  assign w2 = w1 | c;
  assign y = ~w2;
endmodule

このコードでは、Verilogを使って3入力1出力の多段ロジックをモデリングしています。

この例では、入力信号abの論理積を計算し、その結果と入力信号cの論理和を取り、その結果を出力信号yに割り当てています。

ここでは、それぞれのステージの計算が順次行われることを保証するためにデルタ遅延が自動的に適用されます。

このコードの実行結果は次のようになります。

この例では、a=1'b1b=1'b0c=1'b1とした場合を考えます。

#0: a = 1'b1, b = 1'b0, c = 1'b1, y = 1'b0

シミュレーションの結果、信号abcの値から多段ロジックの出力が正しく計算され、それが信号yに反映されていることがわかります。

●デルタ遅延の注意点と対処法

Verilogにおけるデルタ遅延の一つの注意点は、ゼロ時間遅延のイベントは実際のハードウェアの動作を正確に反映しないことです。

つまり、すべての変化が瞬時に起こるわけではなく、ハードウェアでは物理的な制約から一定の時間がかかります。

これを念頭に置いて、デルタ遅延を適切に使うことが重要です。

また、デルタ遅延が大量に発生すると、シミュレーションの速度が低下する可能性があります。

これは、シミュレータが大量のデルタ遅延イベントを処理するために余分なリソースを消費するためです。

この問題を避けるためには、必要以上にデルタ遅延を発生させない設計を心掛けることが重要です。

●デルタ遅延のカスタマイズ方法

Verilogでは、#演算子を使って任意の遅延時間を指定することが可能です。

これにより、特定の動作が他の動作の前後に確実に起こるようにすることができます。

○サンプルコード5:デルタ遅延をカスタマイズしたロジックゲートのモデリング

module delay_gate(input wire a, b, output wire y);
  assign #5 y = a & b;
endmodule

このコードでは、2入力ANDゲートをモデリングしていますが、出力yの更新に対して5時間単位の遅延を導入しています。

これにより、入力信号abの変化から5時間単位後に出力信号yが更新されます

このように、遅延時間をカスタマイズすることで、より現実的なシミュレーションモデルを作成することが可能になります。

まとめ

デルタ遅延は、Verilogにおいて一連の動作を正確に順序付けたり、特定の動作が他の動作の前または後に確実に起こるようにするための重要な概念です。

適切に使用することで、複雑なデジタルシステムを効果的にモデリングできます。

しかし、デルタ遅延の過度な使用はシミュレーションのパフォーマンスに影響を与える可能性があるため、設計時には注意が必要です。

また、Verilogでは任意の遅延時間を指定することも可能で、これにより更に現実的なシミュレーションモデルを作成することができます。