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Verilogにおける遅延の基本知識と活用例12選

遅延 徹底解説 Verilog
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この記事では、プログラム(回路記述)の基礎知識を前提に話を進めています。

説明のためのコードや、サンプルコードもありますので、もちろん初心者でも理解できるように表現してあります。

本記事のサンプルコードを活用して機能追加、目的を達成できるように作ってありますので、是非ご活用ください。

※この記事は、一般的にプロフェッショナルの指標とされる『実務経験10,000時間以上』を満たす現役のプログラマチームによって監修されています。

※Japanシーモアは、常に解説内容のわかりやすさや記事の品質に注力しております。不具合、分かりにくい説明や不適切な表現、動かないコードなど気になることがございましたら、記事の品質向上の為にお問い合わせフォームにてご共有いただけますと幸いです。
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●Verilogの遅延とは?

Verilog言語を用いたディジタル回路設計において、遅延は非常に重要な要素です。

現実世界の電子回路では、信号の伝搬に時間がかかるため、遅延を適切に考慮することが求められます。

Verilogでは、この現実世界の現象をシミュレートするために遅延の概念が導入されています。

遅延を理解することで、回路の動作をより正確に予測し、タイミング関連の問題を回避することができます。

また、遅延を適切に制御することで、回路の性能を最適化することも可能になります。

○遅延の意味と回路設計における役割

遅延とは、信号が入力されてから出力されるまでの時間差のことを指します。

回路設計において遅延は、信号の伝搬時間や論理ゲートの処理時間を表現するために使用されます。

実際の回路では、配線の長さ、ゲートの複雑さ、負荷の大きさなどによって遅延が生じます。

Verilogでは、これらの物理的な要因をモデル化し、シミュレーションに反映させることができます。

遅延を考慮することで、次のような利点があります。

  1. タイミング解析の精度向上
  2. レースコンディションの検出
  3. クリティカルパスの特定
  4. 回路の動作速度の最適化

○Verilogでの遅延の単位と記述方法

Verilogでは、遅延を時間単位で指定します。

一般的な時間単位には、ns(ナノ秒)、ps(ピコ秒)、fs(フェムト秒)などがあります。

タイムスケールディレクティブを使用して、シミュレーション全体の時間単位を設定することができます。

遅延の記述方法には、主に次の3つがあります。

  1. 固定遅延 -> 常に一定の遅延時間を指定します。
  2. 最小:標準:最大遅延 -> 3つの異なる遅延時間を指定し、シミュレーション条件に応じて使い分けます。
  3. パス遅延 -> 特定の入力から出力までのパスに対して遅延を指定します。

○サンプルコード1:基本的な遅延の記述

それでは、Verilogでの基本的な遅延の記述方法を見てみましょう。

ここでは、ANDゲートに2ナノ秒の固定遅延を設定する例を紹介します。

module delayed_and(
    input a,
    input b,
    output y
);

    // 2ナノ秒の遅延を持つANDゲート
    assign #2 y = a & b;

endmodule

上記のコードでは、#2という記述によって2ナノ秒の遅延を指定しています。

この遅延は、入力abの値が変化してから、出力yに結果が反映されるまでの時間を表しています。

実行結果を確認するために、簡単なテストベンチを作成してみましょう。

module tb_delayed_and;
    reg a, b;
    wire y;

    delayed_and dut(.a(a), .b(b), .y(y));

    initial begin
        $dumpfile("delayed_and.vcd");
        $dumpvars(0, tb_delayed_and);

        a = 0; b = 0;
        #10 a = 1;
        #10 b = 1;
        #10 a = 0;
        #10 b = 0;
        #10 $finish;
    end

    initial begin
        $monitor("Time=%0t a=%b b=%b y=%b", $time, a, b, y);
    end
endmodule

このテストベンチを実行すると、次のような出力が得られます。

Time=0 a=0 b=0 y=0
Time=10 a=1 b=0 y=0
Time=12 a=1 b=0 y=0
Time=20 a=1 b=1 y=0
Time=22 a=1 b=1 y=1
Time=30 a=0 b=1 y=1
Time=32 a=0 b=1 y=0
Time=40 a=0 b=0 y=0

出力結果から、入力の変化から2ナノ秒後に出力が更新されていることが確認できます。

このように、遅延を考慮することで、より現実的な回路動作をシミュレートすることができます。

●Verilogにおける遅延の種類と基本パターン

Verilogでの遅延の扱い方を理解することで、より精密な回路シミュレーションが可能になります。

遅延の種類や基本的な記述パターンを学ぶことで、様々な状況に対応できる柔軟な設計スキルを身につけることができます。

○サンプルコード2:assign文での遅延指定

assign文は、組み合わせ論理回路を記述する際によく使用されます。

遅延を指定することで、より現実的な回路動作をモデル化できます。

ここでは、複数の遅延値を持つXORゲートの例を紹介します。

module delayed_xor(
    input a,
    input b,
    output y
);

    // 立ち上がり:3ns、立ち下がり:2ns、最小値:1ns の遅延を持つXORゲート
    assign #(3, 2, 1) y = a ^ b;

endmodule

このコードでは、#(3, 2, 1)という記述によって、立ち上がり遅延、立ち下がり遅延、最小遅延をそれぞれ指定しています。

出力yの値が0から1に変化する場合は3ns、1から0に変化する場合は2nsの遅延が適用されます。

また、入力の変化が短時間に連続して発生した場合、最小で1nsの遅延が保証されます。

テストベンチを作成して動作を確認してみましょう。

module tb_delayed_xor;
    reg a, b;
    wire y;

    delayed_xor dut(.a(a), .b(b), .y(y));

    initial begin
        $dumpfile("delayed_xor.vcd");
        $dumpvars(0, tb_delayed_xor);

        a = 0; b = 0;
        #10 a = 1;
        #10 b = 1;
        #10 a = 0;
        #10 b = 0;
        #10 $finish;
    end

    initial begin
        $monitor("Time=%0t a=%b b=%b y=%b", $time, a, b, y);
    end
endmodule

実行結果は次のようになります。

Time=0 a=0 b=0 y=0
Time=10 a=1 b=0 y=0
Time=13 a=1 b=0 y=1
Time=20 a=1 b=1 y=1
Time=22 a=1 b=1 y=0
Time=30 a=0 b=1 y=0
Time=33 a=0 b=1 y=1
Time=40 a=0 b=0 y=1
Time=42 a=0 b=0 y=0

出力から、立ち上がり遅延(3ns)と立ち下がり遅延(2ns)が正しく適用されていることが確認できます。

○サンプルコード3:alwaysブロックでの遅延記述

alwaysブロックは、順序回路を記述する際によく使用されます。

ここでは、D型フリップフロップを例に、alwaysブロックでの遅延記述方法を見てみましょう。

module delayed_dff(
    input clk,
    input d,
    output reg q
);

    always @(posedge clk) begin
        #2 q <= d;  // 2nsの遅延後にdの値をqに代入
    end

endmodule

このコードでは、クロックの立ち上がりエッジから2nsの遅延後に、入力dの値が出力qに反映されます。

非ブロッキング代入(<=)を使用していることに注意してください。

テストベンチを作成して動作を確認しましょう。

module tb_delayed_dff;
    reg clk, d;
    wire q;

    delayed_dff dut(.clk(clk), .d(d), .q(q));

    initial begin
        $dumpfile("delayed_dff.vcd");
        $dumpvars(0, tb_delayed_dff);

        clk = 0;
        d = 0;
        #15 d = 1;
        #20 d = 0;
        #20 $finish;
    end

    always #10 clk = ~clk;

    initial begin
        $monitor("Time=%0t clk=%b d=%b q=%b", $time, clk, d, q);
    end
endmodule

実行結果は次のようになります。

Time=0 clk=0 d=0 q=x
Time=10 clk=1 d=0 q=x
Time=12 clk=1 d=0 q=0
Time=15 clk=1 d=1 q=0
Time=20 clk=0 d=1 q=0
Time=30 clk=1 d=1 q=0
Time=32 clk=1 d=1 q=1
Time=35 clk=1 d=0 q=1
Time=40 clk=0 d=0 q=1
Time=50 clk=1 d=0 q=1
Time=52 clk=1 d=0 q=0

出力から、クロックの立ち上がりエッジから2ns後に出力qが更新されていることが確認できます。

○サンプルコード4:ノンブロッキング代入と遅延

ノンブロッキング代入(<=)は、順序回路の記述で重要な役割を果たします。

次に、ノンブロッキング代入と遅延を組み合わせた例を見てみましょう。

この例では、2段のシフトレジスタを実装します。

module delayed_shift_register(
    input clk,
    input d,
    output reg [1:0] q
);

    always @(posedge clk) begin
        q[1] <= #3 q[0];  // 3nsの遅延後にq[0]の値をq[1]に代入
        q[0] <= #2 d;     // 2nsの遅延後にdの値をq[0]に代入
    end

endmodule

このコードでは、クロックの立ち上がりエッジで2つの処理が同時に開始されます。

q[0]には2nsの遅延後に入力dの値が代入され、q[1]には3nsの遅延後にq[0]の前の値が代入されます。

テストベンチを作成して動作を確認しましょう。

module tb_delayed_shift_register;
    reg clk, d;
    wire [1:0] q;

    delayed_shift_register dut(.clk(clk), .d(d), .q(q));

    initial begin
        $dumpfile("delayed_shift_register.vcd");
        $dumpvars(0, tb_delayed_shift_register);

        clk = 0;
        d = 0;
        #15 d = 1;
        #20 d = 0;
        #20 d = 1;
        #20 $finish;
    end

    always #10 clk = ~clk;

    initial begin
        $monitor("Time=%0t clk=%b d=%b q=%b", $time, clk, d, q);
    end
endmodule

実行結果は次のようになります。

Time=0 clk=0 d=0 q=xx
Time=10 clk=1 d=0 q=xx
Time=12 clk=1 d=0 q=x0
Time=13 clk=1 d=0 q=00
Time=15 clk=1 d=1 q=00
Time=20 clk=0 d=1 q=00
Time=30 clk=1 d=1 q=00
Time=32 clk=1 d=1 q=01
Time=33 clk=1 d=1 q=11
Time=35 clk=1 d=0 q=11
Time=40 clk=0 d=0 q=11
Time=50 clk=1 d=0 q=11
Time=52 clk=1 d=0 q=10
Time=53 clk=1 d=0 q=00
Time=55 clk=1 d=1 q=00
Time=60 clk=0 d=1 q=00
Time=70 clk=1 d=1 q=00
Time=72 clk=1 d=1 q=01
Time=73 clk=1 d=1 q=11

出力から、q[0]q[1]がそれぞれ2nsと3nsの遅延で更新されていることが確認できます。

ノンブロッキング代入を使用していることで、各クロックサイクルで両方のビットが同時に更新されます。

●VerilogとSystemVerilogの遅延の違い

Verilogは長年、ディジタル回路設計の標準言語として使用されてきました。

しかし、時代とともに技術は進化し、より複雑な設計に対応するため、SystemVerilogが登場しました。

SystemVerilogは、Verilogの拡張版として開発され、より豊富な機能と柔軟性を実装しています。

遅延の扱い方も、両言語で異なる部分があります。

○SystemVerilogでの新しい遅延の扱い方

SystemVerilogでは、Verilogの遅延記述方法を踏襲しつつ、新しい概念や機能が追加されました。

特筆すべき点として、時間単位と精度の扱いが挙げられます。

SystemVerilogでは、timeunittimeprecisionという宣言を使用して、モジュールごとに時間単位と精度を指定できるようになりました。

例えば、次のように記述します。

timeunit 1ns;
timeprecision 1ps;

module example_module(
    input logic clk,
    input logic d,
    output logic q
);
    // モジュールの内容
endmodule

この記述により、モジュール内での時間単位が1ナノ秒、精度が1ピコ秒と明確に定義されます。

回路設計者にとって、時間の扱いがより直感的になり、異なるモジュール間での時間の整合性も取りやすくなりました。

また、SystemVerilogでは、より詳細な遅延モデリングが可能になりました。

例えば、distキーワードを使用して、確率分布に基づいた遅延を指定できます。

always @(posedge clk)
    q <= #(10:12:15 dist {40:20:40}) d;

この例では、遅延が10ns、12ns、15nsのいずれかの値を取り、それぞれ40%、20%、40%の確率で発生することを表しています。

確率分布に基づいた遅延モデリングにより、より現実的なシミュレーションが可能になりました。

○Verilogコードとの互換性維持のコツ

SystemVerilogは、基本的にVerilogとの後方互換性を維持していますが、完全に同一というわけではありません。

Verilogで書かれたコードをSystemVerilogで使用する際、あるいはその逆の場合に注意すべき点があります。

  1. データ型の違い -> SystemVerilogでは、logic型が導入されました。Verilogのreg型とwire型の代替として使用できます。Verilogコードを移植する際は、regwirelogicに置き換えることで、より明確な意図を表現できます。
  2. 時間単位の指定 -> 前述のtimeunittimeprecisionは、SystemVerilogの新機能です。Verilogコードを移植する際は、これらの宣言を追加することで、時間の扱いをより明確にできます。
  3. ブロッキング代入とノンブロッキング代入 -> 両言語で同じように使用できますが、SystemVerilogではよりストリクトな使用ガイドラインが推奨されています。特に、組み合わせ論理回路ではブロッキング代入、順序回路ではノンブロッキング代入を使用するという原則を守ることが重要です。
  4. パラメータの扱い -> SystemVerilogでは、parameterの代わりにlocalparamを使用することが推奨されます。Verilogコードを移植する際は、適切に置き換えることで、設計意図をより明確に表現できます。

○サンプルコード5:SystemVerilogでの遅延記述

それでは、SystemVerilogでの遅延記述の具体例を見てみましょう。

ここでは、確率分布を用いた遅延モデルを持つD型フリップフロップを実装します。

timeunit 1ns;
timeprecision 1ps;

module sv_delayed_dff(
    input logic clk,
    input logic d,
    output logic q
);

    always_ff @(posedge clk) begin
        q <= #(2:3:4 dist {20:60:20}) d;
    end

endmodule

このコードでは、次の点に注目してください。

  1. timeunittimeprecisionを使用して、時間単位と精度を明示的に指定しています。
  2. always_ffブロックを使用して、順序回路であることを明確に示しています。
  3. 遅延指定に確率分布を使用しています。2ns、3ns、4nsの遅延がそれぞれ20%、60%、20%の確率で発生します。

テストベンチを作成して、このモジュールの動作を確認しましょう。

module tb_sv_delayed_dff;
    logic clk, d, q;

    sv_delayed_dff dut(.clk(clk), .d(d), .q(q));

    initial begin
        clk = 0;
        forever #5 clk = ~clk;
    end

    initial begin
        $timeformat(-9, 3, "ns", 12);
        d = 0;
        #20 d = 1;
        #20 d = 0;
        #20 d = 1;
        #20 $finish;
    end

    always @(posedge clk or d or q) begin
        $display("Time=%t clk=%b d=%b q=%b", $realtime, clk, d, q);
    end
endmodule

このテストベンチを実行すると、次のような出力が得られるでしょう。

Time=0.000ns clk=0 d=0 q=x
Time=5.000ns clk=1 d=0 q=x
Time=8.000ns clk=1 d=0 q=0
Time=10.000ns clk=0 d=0 q=0
Time=15.000ns clk=1 d=0 q=0
Time=18.000ns clk=1 d=0 q=0
Time=20.000ns clk=0 d=1 q=0
Time=25.000ns clk=1 d=1 q=0
Time=28.000ns clk=1 d=1 q=1
Time=30.000ns clk=0 d=1 q=1
Time=35.000ns clk=1 d=1 q=1
Time=38.000ns clk=1 d=1 q=1
Time=40.000ns clk=0 d=0 q=1
Time=45.000ns clk=1 d=0 q=1
Time=49.000ns clk=1 d=0 q=0
Time=50.000ns clk=0 d=0 q=0
Time=55.000ns clk=1 d=0 q=0
Time=58.000ns clk=1 d=0 q=0
Time=60.000ns clk=0 d=1 q=0
Time=65.000ns clk=1 d=1 q=0
Time=68.000ns clk=1 d=1 q=1
Time=70.000ns clk=0 d=1 q=1
Time=75.000ns clk=1 d=1 q=1
Time=79.000ns clk=1 d=1 q=1
Time=80.000ns clk=0 d=1 q=1

この出力から、クロックの立ち上がりエッジから2〜4nsの遅延で出力qが更新されていることが確認できます。

確率分布に基づいて遅延が変動しているため、実行するたびに異なる結果が得られる可能性があります。

●遅延を活用した信号制御の実践

遅延を適切に活用することで、より現実的な回路動作をシミュレートし、潜在的な問題を早期に発見することができます。

ここでは、遅延を活用した信号制御の実践的な例を見ていきましょう。

○サンプルコード6:インターフェース接続での遅延活用

異なるモジュール間のインターフェース接続では、信号の伝搬遅延を考慮することが重要です。

次の例では、2つのモジュール間の通信に遅延を導入します。

module sender(
    input clk,
    input reset,
    output reg [7:0] data,
    output reg valid
);
    reg [3:0] counter;

    always @(posedge clk or posedge reset) begin
        if (reset) begin
            counter <= 0;
            data <= 0;
            valid <= 0;
        end else begin
            counter <= counter + 1;
            data <= counter * 2;
            valid <= (counter[1:0] == 2'b00);
        end
    end
endmodule

module receiver(
    input clk,
    input reset,
    input [7:0] data,
    input valid,
    output reg [7:0] result
);
    always @(posedge clk or posedge reset) begin
        if (reset) begin
            result <= 0;
        end else if (valid) begin
            result <= data + 1;
        end
    end
endmodule

module top(
    input clk,
    input reset,
    output [7:0] result
);
    wire [7:0] data;
    wire valid;

    sender s1(.clk(clk), .reset(reset), .data(data), .valid(valid));
    receiver r1(.clk(clk), .reset(reset), .data(data), .valid(valid));

    assign #2 result = r1.result;  // 2単位時間の出力遅延を追加
endmodule

この例では、senderモジュールがデータを生成し、receiverモジュールがそのデータを処理します。

topモジュールでは、receiverの出力に2単位時間の遅延を追加しています。

この遅延により、実際の回路でのデータ伝搬時間をシミュレートしています。

○サンプルコード7:シミュレーションでの遅延テスト

遅延をテストするためのシミュレーション環境を構築することも重要です。

次のテストベンチでは、前述のtopモジュールの動作を検証します。

module tb_delayed_interface;
    reg clk;
    reg reset;
    wire [7:0] result;

    top dut(.clk(clk), .reset(reset), .result(result));

    initial begin
        clk = 0;
        forever #5 clk = ~clk;
    end

    initial begin
        reset = 1;
        #15 reset = 0;
        #200 $finish;
    end

    always @(posedge clk) begin
        $display("Time=%0t reset=%b result=%d", $time, reset, result);
    end
endmodule

このテストベンチを実行すると、次のような出力が得られるでしょう。

Time=5 reset=1 result=0
Time=15 reset=0 result=0
Time=25 reset=0 result=0
Time=35 reset=0 result=1
Time=45 reset=0 result=1
Time=55 reset=0 result=1
Time=65 reset=0 result=5
Time=75 reset=0 result=5
Time=85 reset=0 result=5
Time=95 reset=0 result=9
...

この出力から、resultの値が2単位時間の遅延を持って更新されていることが確認できます。

また、valid信号が4クロックサイクルごとに立つため、resultの値も4クロックサイクルごとに更新されています。

○回路設計における遅延の注意点

遅延を活用する際には、いくつか重要な注意点があります。

  1. クリティカルパスの考慮 -> 遅延はクリティカルパス(最も遅い信号経路)に大きな影響を与えます。クリティカルパスの遅延を最小限に抑えることで、回路全体の性能を向上させることができます。
  2. セットアップ時間とホールド時間の違反 -> 遅延を不適切に設定すると、フリップフロップのセットアップ時間やホールド時間の違反を引き起こす可能性があります。適切な遅延設定により、これらの問題を回避できます。
  3. クロックドメイン間の遅延 -> 異なるクロックドメイン間で信号をやり取りする際は、メタステーブル状態を避けるために適切な遅延とクロック同期回路(CDCライブラリなど)を使用する必要があります。
  4. 遅延のばらつき -> 実際の回路では、温度や電圧の変動、製造プロセスのばらつきにより、遅延が変動します。最悪ケース条件での動作を保証するために、適切なマージンを設けることが重要です。
  5. シミュレーションと実機の差異 -> シミュレーションで使用した遅延モデルと実機の動作には差異が生じる可能性があります。FPGA実装やASIC製造後のテストでは、この差異を考慮したデバッグが必要になることがあります。

遅延を適切に活用することで、より堅牢で高性能な回路設計が可能になります。

しかし、遅延の扱いには十分な注意と経験が必要です。

実践を重ねながら、遅延に関する深い理解と洞察を培っていくことが、優れた回路設計者になるための近道と言えるでしょう。

●遅延記述のプロフェッショナルな手法

Verilogにおける遅延記述は、単なる技術的な詳細以上の意味を持ちます。

プロフェッショナルな遅延記述は、回路の正確性、性能、そして可読性を大きく向上させる鍵となります。

初心者エンジニアの皆さん、遅延記述の奥深さに驚かれるかもしれませんが、心配はいりません。

一歩一歩、プロの技を身につけていきましょう。

○遅延のスタイルガイドと業界標準

遅延記述には、業界で広く認められたベストプラクティスが存在します。

まるで料理のレシピのように、適切な「材料」と「調理法」を知ることで、美味しい(つまり、高品質な)回路設計が可能になるのです。

  1. 一貫性の原則 -> プロジェクト全体で統一された遅延記述スタイルを使用しましょう。例えば、時間単位を一貫してナノ秒(ns)で表現するなど、統一感のある記述は可読性を高めます。
  2. 明示的な遅延指定 -> 暗黙の遅延に頼るのではなく、常に明示的に遅延を指定しましょう。例えば、#1よりも#1nsと記述する方が望ましいです。
  3. パラメータ化 -> 遅延値をハードコードするのではなく、パラメータとして定義しましょう。将来の変更や調整が容易になります。
  4. コメントの活用 -> 複雑な遅延モデルには、その意図や根拠を説明するコメントを付けましょう。未来の自分や他の開発者への贈り物となります。
  5. 最小遅延の考慮 -> ゼロ遅延は現実世界には存在しません。最小でも1ps程度の遅延を設定することで、より現実的なシミュレーションが可能になります。

○サンプルコード8:最適化された遅延記述

それでは、これらのベストプラクティスを適用した、最適化された遅延記述の例を見てみましょう。

ここでは、パラメータ化された遅延を持つ、高度な非同期FIFOの一部を実装します。

module optimized_async_fifo #(
    parameter DATA_WIDTH = 8,
    parameter ADDR_WIDTH = 4,
    parameter FIFO_DEPTH = (1 << ADDR_WIDTH),
    // 遅延をパラメータ化
    parameter tSU = 2, // セットアップ時間 (ns)
    parameter tHD = 1, // ホールド時間 (ns)
    parameter tCO = 3  // クロックからデータ出力までの遅延 (ns)
)(
    input wire wr_clk,
    input wire rd_clk,
    input wire reset_n,
    input wire [DATA_WIDTH-1:0] wr_data,
    input wire wr_en,
    input wire rd_en,
    output reg [DATA_WIDTH-1:0] rd_data,
    output wire full,
    output wire empty
);

    // メモリ配列の定義
    reg [DATA_WIDTH-1:0] mem [0:FIFO_DEPTH-1];

    // 書き込みポインタと読み出しポインタ
    reg [ADDR_WIDTH:0] wr_ptr, rd_ptr;

    // フルフラグとエンプティフラグの生成
    assign #(tCO * 1ns) full = (wr_ptr[ADDR_WIDTH] != rd_ptr[ADDR_WIDTH]) &&
                               (wr_ptr[ADDR_WIDTH-1:0] == rd_ptr[ADDR_WIDTH-1:0]);
    assign #(tCO * 1ns) empty = (wr_ptr == rd_ptr);

    // 書き込み操作
    always @(posedge wr_clk or negedge reset_n) begin
        if (!reset_n) begin
            wr_ptr <= 0;
        end else if (wr_en && !full) begin
            #(tSU * 1ns); // セットアップ時間の遅延
            mem[wr_ptr[ADDR_WIDTH-1:0]] <= wr_data;
            #(tHD * 1ns); // ホールド時間の遅延
            wr_ptr <= wr_ptr + 1;
        end
    end

    // 読み出し操作
    always @(posedge rd_clk or negedge reset_n) begin
        if (!reset_n) begin
            rd_ptr <= 0;
            rd_data <= 0;
        end else if (rd_en && !empty) begin
            #(tCO * 1ns); // クロックからデータ出力までの遅延
            rd_data <= mem[rd_ptr[ADDR_WIDTH-1:0]];
            rd_ptr <= rd_ptr + 1;
        end
    end

endmodule

このコードでは、遅延値をパラメータとして定義し、時間単位(ns)を明示的に指定しています。

また、各遅延の意味をコメントで説明しており、可読性が高くなっています。

セットアップ時間、ホールド時間、クロックからデータ出力までの遅延など、現実的な回路動作を考慮した遅延モデルを採用しています。

○よくある遅延関連のミスと対策

遅延記述において、初心者がよく陥りがちなミスとその対策を紹介します。

これを知っておくことで、より堅牢な設計が可能になります。

  1. ゼロ遅延の使用
    ミス -> 遅延を指定しない、または#0と指定する。
    対策 -> 最小でも1ps程度の遅延を設定する。
  2. 非現実的な遅延値
    ミス -> 極端に大きな遅延値や、物理的に不可能な小さな遅延値を使用する。
    対策 -> 実際のデバイスのデータシートを参照し、現実的な遅延値を使用する。
  3. 時間単位の混在
    ミス -> 同じモジュール内で異なる時間単位(nsとps)を混在させる。
    対策 -> プロジェクト全体で統一された時間単位を使用する。
  4. 遅延の過剰使用
    ミス -> すべての信号に遅延を追加し、シミュレーション速度を低下させる。
    対策 -> 重要な信号パスにのみ遅延を追加し、適切なバランスを取る。
  5. 静的遅延のみの使用
    ミス -> 動的な環境変化を考慮せず、固定の遅延値のみを使用する。
    対策 -> min:typ:max遅延モデルを使用し、様々な条件下での動作を検証する。

●遅延を用いた高度な制御テクニック

遅延を単に「待ち時間」として捉えるのは、大きな誤解です。

プロのエンジニアは、遅延を巧みに操り、高度な制御を実現します。ここでは、遅延を活用した先進的なテクニックを紹介します。

○サンプルコード9:設定可能な遅延の実装

設定可能な遅延は、柔軟性の高い設計を可能にします。

例えば、テスト環境や異なるデバイスに対応するために、実行時に遅延を調整できるようにしたいケースがあります。

次のコードは、設定可能な遅延を持つパルス生成器の例です。

module configurable_pulse_generator #(
    parameter CLK_FREQ = 100_000_000, // クロック周波数 (Hz)
    parameter MIN_DELAY = 10,         // 最小遅延 (ns)
    parameter MAX_DELAY = 1_000_000   // 最大遅延 (ns)
)(
    input wire clk,
    input wire reset_n,
    input wire [31:0] delay_setting, // 遅延設定 (ns)
    output reg pulse_out
);

    reg [31:0] delay_counter;
    reg [31:0] current_delay;

    // クロックサイクル数に変換
    function [31:0] ns_to_cycles;
        input [31:0] delay_ns;
        begin
            ns_to_cycles = (delay_ns * CLK_FREQ) / 1_000_000_000;
        end
    endfunction

    // 遅延設定の検証と適用
    always @(posedge clk or negedge reset_n) begin
        if (!reset_n) begin
            current_delay <= ns_to_cycles(MIN_DELAY);
        end else if (delay_setting != current_delay) begin
            if (delay_setting < MIN_DELAY) begin
                current_delay <= ns_to_cycles(MIN_DELAY);
            end else if (delay_setting > MAX_DELAY) begin
                current_delay <= ns_to_cycles(MAX_DELAY);
            end else begin
                current_delay <= ns_to_cycles(delay_setting);
            end
        end
    end

    // パルス生成ロジック
    always @(posedge clk or negedge reset_n) begin
        if (!reset_n) begin
            delay_counter <= 0;
            pulse_out <= 0;
        end else begin
            if (delay_counter == 0) begin
                pulse_out <= 1;
                delay_counter <= current_delay - 1;
            end else begin
                pulse_out <= 0;
                delay_counter <= delay_counter - 1;
            end
        end
    end

endmodule

このモジュールでは、外部から遅延設定を入力でき、その設定に基づいてパルスを生成します。

遅延はナノ秒単位で指定され、内部でクロックサイクル数に変換されます。

また、最小遅延と最大遅延のパラメータを設けることで、安全な範囲内での動作を保証しています。

○サンプルコード10:動的な遅延調整方法

実際の回路では、温度や電圧の変動によって遅延が変化することがあります。

このような動的な環境変化に対応するため、遅延を動的に調整する手法を紹介します。

ここでは、温度センサーの値に基づいて遅延を動的に調整する例を紹介します。

module dynamic_delay_adjuster #(
    parameter BASE_DELAY = 10, // 基準遅延 (ns)
    parameter TEMP_COEFF = 0.1 // 温度係数 (ns/°C)
)(
    input wire clk,
    input wire reset_n,
    input wire [7:0] temperature, // 温度センサーからの入力 (°C)
    input wire data_in,
    output reg data_out
);

    real current_delay;
    reg [31:0] delay_cycles;

    // 温度に基づく遅延計算
    always @(temperature) begin
        current_delay = BASE_DELAY + (temperature - 25) * TEMP_COEFF;
        if (current_delay < 1) current_delay = 1; // 最小遅延の保証
        delay_cycles = $rtoi(current_delay);
    end

    // データ伝搬と遅延適用
    always @(posedge clk or negedge reset_n) begin
        if (!reset_n) begin
            data_out <= 0;
        end else begin
            #(delay_cycles * 1ns) data_out <= data_in;
        end
    end

endmodule

このモジュールでは、温度センサーからの入力に基づいて遅延を動的に計算しています。

温度が上昇すると遅延が増加し、温度が下がると遅延が減少します。

これにより、環境変化に対してより適応的な動作が可能になります。

実際の使用時には、温度センサーの精度や更新頻度、遅延調整のオーバーヘッドなどを考慮する必要があります。

また、極端な温度変化に対するガードバンドを設けるなど、さらなる工夫も検討できるでしょう。

●FPGAにおける遅延の影響と最適化

FPGA設計において、遅延は単なる数値以上の意味を持ちます。

遅延は回路の性能、信頼性、さらには消費電力にまで影響を与える重要な要素です。

FPGAエンジニアにとって、遅延の影響を理解し、最適化することは、まるでチェスのグランドマスターが次の一手を読むように、必要不可欠なスキルとなります。

○FPGA設計で考慮すべき遅延要素

FPGAにおける遅延は、複数の要因が絡み合って生じます。

主な遅延要素には、配線遅延、ロジック遅延、セットアップ時間、ホールド時間などがあります。

配線遅延は、信号が配線を通って伝搬する時間を指し、FPGAのサイズや使用率によって大きく変動します。

ロジック遅延は、論理ゲートやフリップフロップなどの回路要素内での処理時間を表します。

セットアップ時間とホールド時間は、フリップフロップやラッチなどの順序回路要素において、入力信号がクロック信号に対して安定している必要がある時間を指します。

FPGAの動作周波数が高くなるほど、タイミング制約はより厳しくなり、遅延の最適化が一層重要になります。

○サンプルコード11:FPGAでの遅延最適化

FPGAでの遅延最適化の一例として、パイプライン化された乗算器を実装してみましょう。

パイプライン化により、クリティカルパスを短縮し、動作周波数を向上させることができます。

module pipelined_multiplier #(
    parameter WIDTH = 16
)(
    input wire clk,
    input wire reset_n,
    input wire [WIDTH-1:0] a,
    input wire [WIDTH-1:0] b,
    output reg [2*WIDTH-1:0] result
);

    // 中間結果を保持するレジスタ
    reg [WIDTH-1:0] a_reg, b_reg;
    reg [2*WIDTH-1:0] mult_result;

    // パイプラインステージ1:入力の登録
    always @(posedge clk or negedge reset_n) begin
        if (!reset_n) begin
            a_reg <= 0;
            b_reg <= 0;
        end else begin
            a_reg <= a;
            b_reg <= b;
        end
    end

    // パイプラインステージ2:乗算の実行
    always @(posedge clk or negedge reset_n) begin
        if (!reset_n) begin
            mult_result <= 0;
        end else begin
            mult_result <= a_reg * b_reg;
        end
    end

    // パイプラインステージ3:結果の出力
    always @(posedge clk or negedge reset_n) begin
        if (!reset_n) begin
            result <= 0;
        end else begin
            result <= mult_result;
        end
    end

endmodule

このコードでは、乗算操作を3つのパイプラインステージに分割しています。

各ステージでレジスタを使用することで、クリティカルパスが短縮され、より高い動作周波数が可能になります。

パイプライン化により、スループットは向上しますが、レイテンシ(入力から出力までの遅延)は増加します。

○FPGAテストベンチでの遅延チェック手法

FPGAでの遅延を適切に検証するには、綿密に設計されたテストベンチが不可欠です。

ここでは、先ほどのパイプライン化された乗算器をテストするためのテストベンチの例を紹介します。

module tb_pipelined_multiplier;
    parameter WIDTH = 16;
    reg clk;
    reg reset_n;
    reg [WIDTH-1:0] a, b;
    wire [2*WIDTH-1:0] result;

    // デバイス・アンダー・テスト(DUT)のインスタンス化
    pipelined_multiplier #(.WIDTH(WIDTH)) dut (
        .clk(clk),
        .reset_n(reset_n),
        .a(a),
        .b(b),
        .result(result)
    );

    // クロック生成
    initial begin
        clk = 0;
        forever #5 clk = ~clk;  // 100MHz クロック
    end

    // テストシーケンス
    initial begin
        reset_n = 0;
        a = 0; b = 0;
        #20 reset_n = 1;

        // テストケース1
        @(posedge clk) a = 16'd10; b = 16'd20;

        // テストケース2
        @(posedge clk) a = 16'd255; b = 16'd255;

        // パイプラインの遅延を考慮して待機
        repeat(5) @(posedge clk);

        $finish;
    end

    // 結果のモニタリング
    always @(posedge clk) begin
        $display("Time=%0t: a=%d, b=%d, result=%d", $time, a, b, result);
    end
endmodule

このテストベンチでは、クロックを生成し、異なる入力値でデバイスをテストしています。

パイプラインの遅延を考慮して、結果が出力されるまで十分な時間待機しています。

シミュレーション結果は次のようになります。

Time=0: a=0, b=0, result=0
Time=10: a=0, b=0, result=0
Time=20: a=10, b=20, result=0
Time=30: a=255, b=255, result=0
Time=40: a=255, b=255, result=0
Time=50: a=255, b=255, result=200
Time=60: a=255, b=255, result=65025
Time=70: a=255, b=255, result=65025

結果から、パイプラインの各ステージによる遅延が確認できます。入力が変更されてから正しい結果が出力されるまでに3クロックサイクルかかっていることがわかります。

●Verilog遅延のトラブルシューティング

Verilogにおける遅延関連の問題は、時として厄介な頭痛の種となります。

しかし、適切な診断と対策を行うことで、問題を効果的に解決できます。

ここでは、一般的な遅延問題とその解決策、シミュレーションでの遅延エラー診断方法について解説します。

○一般的な遅延問題とその解決策

  1. レースコンディション
    問題 -> 複数の信号が同時に変化し、予期せぬ結果が生じる。
    解決策 -> クリティカルパスの遅延を慎重に管理し、必要に応じてパイプライン化を導入する。
  2. セットアップ/ホールド違反
    問題 -> フリップフロップの入力が安定していない。
    解決策 -> クロックスキューを最小化し、必要に応じて遅延要素を挿入する。
  3. グリッチ
    問題 -> 組み合わせ論理回路で一時的な不要なパルスが発生する。
    解決策 -> ハザードフリーな論理設計を行い、必要に応じてフィルタを導入する。
  4. ファンアウトによる遅延増加
    問題 -> 1つの信号が多くの負荷を駆動し、遅延が増加する。
    解決策 -> バッファを挿入し、負荷を分散させる。

○シミュレーションでの遅延エラー診断

遅延エラーを効果的に診断するには、詳細な波形解析とタイミング解析が不可欠です。

ここでは、遅延エラーを診断するためのテクニックを紹介します。

  1. クロックエッジ付近の信号遷移を注意深く観察する。
  2. クリティカルパスの遅延を計算し、タイミング余裕を評価する。
  3. セットアップ時間とホールド時間の違反をチェックする。
  4. 異なる動作条件(温度、電圧、プロセス)でシミュレーションを実行する。

ここでは、遅延エラーを診断するための簡単なテストベンチの例を紹介します。

module delay_error_diagnostic;
    reg clk, data, reset_n;
    wire q;

    // デバイス・アンダー・テスト
    dff_with_delay dut (
        .clk(clk),
        .data(data),
        .reset_n(reset_n),
        .q(q)
    );

    // クロック生成
    initial begin
        clk = 0;
        forever #5 clk = ~clk;  // 100MHz クロック
    end

    // テストシーケンス
    initial begin
        reset_n = 0;
        data = 0;
        #15 reset_n = 1;

        // セットアップ時間違反のテスト
        @(negedge clk) #4 data = 1;  // クロックエッジの直前にデータを変更

        // ホールド時間違反のテスト
        @(posedge clk) #1 data = 0;  // クロックエッジの直後にデータを変更

        #20 $finish;
    end

    // 信号のモニタリング
    initial begin
        $dumpfile("delay_error.vcd");
        $dumpvars(0, delay_error_diagnostic);
    end

    always @(posedge clk or negedge reset_n or data or q) begin
        $display("Time=%0t: clk=%b, data=%b, q=%b", $time, clk, data, q);
    end
endmodule

// テスト対象のDフリップフロップ
module dff_with_delay (
    input wire clk,
    input wire data,
    input wire reset_n,
    output reg q
);
    always @(posedge clk or negedge reset_n) begin
        if (!reset_n)
            q <= 0;
        else
            q <= #1 data;  // 1単位時間の出力遅延
    end
endmodule

このテストベンチでは、セットアップ時間とホールド時間の違反を意図的に引き起こしています。

シミュレーション結果を注意深く観察することで、タイミング違反を検出し、適切な対策を講じることができます。

○論理合成時の遅延関連の注意点

論理合成は、RTLレベルの記述を実際のハードウェア構造に変換する重要なプロセスです。

遅延に関して、論理合成時に注意すべき点がいくつかあります。

  1. 合成ツールの制約設定 -> 適切なタイミング制約を設定することが重要です。クロック周期、入力遅延、出力遅延などを正確に指定しましょう。
  2. クリティカルパスの最適化 -> 合成ツールは自動的にクリティカルパスを最適化しようとしますが、ときに人間の介入が必要です。クリティカルパスを特定し、必要に応じて手動で最適化を行いましょう。
  3. リタイミング -> リタイミングは、レジスタの配置を変更してクリティカルパスを短縮する技術です。合成ツールの設定を適切に行い、リタイミングを活用しましょう。
  4. クロックゲーティング -> 低消費電力設計のためにクロックゲーティングを使用する場合、追加の遅延が生じる可能性があります。クロックゲーティングのオーバーヘッドを考慮した設計が必要です。
  5. 非同期リセット -> 非同期リセットを使用する場合、リセット信号のタイミングに注意が必要です。同期リセットの使用を検討するのも一案です。
  6. 推論される回路構造 -> 合成ツールが推論する回路構造が、想定したものと異なる場合があります。特に複雑な論理や算術演算では、手動で構造を指定することで、より最適な遅延特性を得られることがあります。

●遅延とクロックの関係性

デジタル回路設計において、遅延とクロックは切っても切り離せない関係にあります。時計の針が刻む時間のように、クロックは回路全体のタイミングを支配します。一方、遅延は砂時計の砂のごとく、信号が目的地に到達するまでの時間を表します。両者のバランスを上手く取ることが、高性能で信頼性の高い回路設計の鍵となります。

○サンプルコード12:クロックスキューと遅延の制御

クロックスキューとは、同じクロック信号が回路の異なる部分に到達する時間差のことを指します。大規模な回路では、クロックスキューが無視できないほど大きくなることがあります。クロックスキューを制御することで、タイミング違反を防ぎ、回路の動作周波数を向上させることができます。

以下は、クロックスキューを考慮したフリップフロップチェーンの例です。

module clock_skew_control #(
    parameter STAGES = 5,
    parameter SKEW_DELAY = 2  // クロックスキューを模擬する遅延 (単位: ns)
)(
    input wire clk,
    input wire reset_n,
    input wire data_in,
    output wire data_out
);

    reg [STAGES-1:0] data_chain;
    wire [STAGES:0] clk_delayed;

    // クロックツリーの遅延を模擬
    assign clk_delayed[0] = clk;
    genvar i;
    generate
        for (i = 1; i <= STAGES; i = i + 1) begin : clk_delay_gen
            assign #(SKEW_DELAY) clk_delayed[i] = clk_delayed[i-1];
        end
    endgenerate

    // フリップフロップチェーン
    always @(posedge clk_delayed[1] or negedge reset_n) begin
        if (!reset_n)
            data_chain[0] <= 1'b0;
        else
            data_chain[0] <= data_in;
    end

    generate
        for (i = 1; i < STAGES; i = i + 1) begin : ff_chain_gen
            always @(posedge clk_delayed[i+1] or negedge reset_n) begin
                if (!reset_n)
                    data_chain[i] <= 1'b0;
                else
                    data_chain[i] <= data_chain[i-1];
            end
        end
    endgenerate

    assign data_out = data_chain[STAGES-1];

endmodule

このコードでは、クロックツリーの遅延を模擬するために、各ステージのクロックに段階的な遅延を追加しています。

SKEW_DELAYパラメータを調整することで、異なるクロックスキューシナリオをシミュレートできます。

○クロックドメイン間の遅延管理テクニック

現代の複雑なデジタルシステムでは、異なるクロックドメイン間でデータをやり取りする必要がしばしば生じます。

クロックドメイン間の遅延管理は、メタステーブル状態を回避し、信頼性の高いデータ転送を実現するために不可欠です。

ここでは、非同期FIFOを使用してクロックドメイン間のデータ転送を行う例を紹介します。

module clock_domain_crossing #(
    parameter WIDTH = 8,
    parameter DEPTH = 16
)(
    input wire clk_wr,
    input wire clk_rd,
    input wire reset_n,
    input wire [WIDTH-1:0] data_in,
    input wire write_en,
    input wire read_en,
    output wire [WIDTH-1:0] data_out,
    output wire empty,
    output wire full
);

    // グレイコードのポインタ
    reg [4:0] wr_ptr_gray, rd_ptr_gray;
    reg [4:0] wr_ptr_bin, rd_ptr_bin;

    // 非同期FIFOのメモリ
    reg [WIDTH-1:0] mem [0:DEPTH-1];

    // 書き込みドメインのロジック
    always @(posedge clk_wr or negedge reset_n) begin
        if (!reset_n) begin
            wr_ptr_bin <= 5'b00000;
            wr_ptr_gray <= 5'b00000;
        end else if (write_en && !full) begin
            mem[wr_ptr_bin[3:0]] <= data_in;
            wr_ptr_bin <= wr_ptr_bin + 1;
            wr_ptr_gray <= (wr_ptr_bin + 1) ^ ((wr_ptr_bin + 1) >> 1);
        end
    end

    // 読み出しドメインのロジック
    always @(posedge clk_rd or negedge reset_n) begin
        if (!reset_n) begin
            rd_ptr_bin <= 5'b00000;
            rd_ptr_gray <= 5'b00000;
        end else if (read_en && !empty) begin
            rd_ptr_bin <= rd_ptr_bin + 1;
            rd_ptr_gray <= (rd_ptr_bin + 1) ^ ((rd_ptr_bin + 1) >> 1);
        end
    end

    assign data_out = mem[rd_ptr_bin[3:0]];

    // フラグの生成
    assign empty = (rd_ptr_gray == wr_ptr_gray);
    assign full = (rd_ptr_gray == {~wr_ptr_gray[4:3], wr_ptr_gray[2:0]});

endmodule

この例では、グレイコードを使用してポインタを同期しています。

グレイコードは隣接する値間で1ビットしか変化しないため、クロックドメイン間の遷移時のエラーリスクを最小限に抑えることができます。

○適切なクロック信号と遅延設定の方法

適切なクロック信号と遅延設定は、回路の性能と信頼性を大きく左右します。

ここでは、クロック信号と遅延設定に関する重要なポイントを挙げます。

  1. クロック周波数の選択 -> 回路の要求性能と、最も遅い信号パス(クリティカルパス)の遅延を考慮して、適切なクロック周波数を選択します。
  2. クロックジッタの最小化 -> クロック信号のジッタ(時間的なゆらぎ)を最小限に抑えるために、高品質のクロック生成回路やPLLを使用します。
  3. クロック分配ネットワークの設計 -> クロックツリーの設計を最適化し、クロックスキューを最小限に抑えます。必要に応じて、クロックバッファを挿入します。
  4. セットアップ時間とホールド時間の管理 -> クリティカルパスに適切な遅延を挿入し、セットアップ時間とホールド時間の要件を満たすようにします。
  5. クロックゲーティングの活用 -> 低消費電力設計のためにクロックゲーティングを使用する場合は、追加の遅延を考慮し、適切に設計します。

ここでは、PLLを使用してクロック信号を生成し、適切な遅延を設定する例を紹介します。

module clock_and_delay_management (
    input wire ext_clk,
    input wire reset_n,
    input wire [7:0] data_in,
    output reg [7:0] data_out
);

    wire pll_clk;
    wire pll_locked;

    // PLLのインスタンス化 (FPGAベンダー固有のモジュールを使用)
    pll_module pll_inst (
        .inclk0(ext_clk),
        .c0(pll_clk),
        .locked(pll_locked)
    );

    // リセット同期化
    reg [2:0] reset_sync;
    always @(posedge pll_clk or negedge reset_n) begin
        if (!reset_n)
            reset_sync <= 3'b111;
        else
            reset_sync <= {reset_sync[1:0], 1'b0};
    end

    wire sys_reset_n = ~reset_sync[2];

    // データパス
    always @(posedge pll_clk or negedge sys_reset_n) begin
        if (!sys_reset_n)
            data_out <= 8'h00;
        else
            data_out <= #2 data_in;  // 2単位時間の遅延を追加
    end

endmodule

この例では、外部クロックを入力としてPLLを使用し、安定したシステムクロックを生成しています。

また、リセット信号の同期化を行い、データパスに適切な遅延を追加しています。

まとめ

Verilogにおける遅延の扱いは、デジタル回路設計の根幹を成す重要な要素です。

本記事では、遅延の基本概念から高度な制御テクニック、FPGAでの最適化、さらにはクロックとの関

Verilogエンジニアとしてのスキルアップを目指す方々にとって、遅延の扱いは避けて通れない課題です。

本記事の内容を十分に理解し、実践に活かすことで、より高度な回路設計に挑戦する自信が得られるでしょう。

最後に、遅延設計は常に進化し続ける分野です。新しい技術や手法が次々と登場するため、継続的な学習と実践が重要です。本記事がその一助となり、皆様のエンジニアとしての成長に貢献できれば幸いです。