●Pythonでポアソン分布を扱う方法とは?
データ分析や統計モデリングで、ポアソン分布は非常に重要な役割を果たします。
単位時間あたりの発生回数や、ある区間内のイベント数を表現するのに適しているため、多くの実務で活用されています。
Pythonを使えば、このポアソン分布を簡単に扱うことができます。
まずは、ポアソン分布の基本概念から見ていきましょう。
ポアソン分布は、離散確率分布の一種で、一定の期間内に発生する事象の回数を表現します。
例えば、1時間あたりに来店する顧客数や、1日あたりに発生する機械の故障回数などがポアソン分布に従うことがあります。
ポアソン分布の特徴として、平均と分散が等しいという性質があります。
この性質は、データの分析や予測を行う際に非常に便利です。
また、事象の発生が互いに独立であり、発生率が一定であるという前提が必要になります。
Pythonでポアソン分布を扱う際には、主にNumPyとSciPyというライブラリを使用します。
NumPyは数値計算や配列操作に優れており、SciPyは科学技術計算に特化したライブラリです。
○Pythonライブラリを使ったポアソン分布の実装
Pythonでポアソン分布を扱うには、まず必要なライブラリをインポートします。
一般的に、次のようなインポート文を使用します。
NumPyは’np’として、SciPyの統計モジュールは’stats’としてインポートしています。
また、グラフ描画用のMatplotlibも’plt’としてインポートしています。
○サンプルコード1:numpyでポアソン乱数を生成
ポアソン分布に従う乱数を生成するには、NumPyのrandom.poisson()
関数を使用します。
次のサンプルコードでは、平均値(λ)が3のポアソン分布から1000個の乱数を生成しています。
このコードを実行すると、次のような出力が得られます。
出力を見ると、生成された乱数の平均値と分散がλ(ここでは3)に近い値になっていることがわかります。
この特性は、ポアソン分布の重要な性質の一つです。
●ポアソン分布の計算と可視化
ポアソン分布を理解し、実際のデータ分析に活用するためには、確率質量関数や累積分布関数の計算、そしてグラフによる可視化が非常に重要です。
○サンプルコード2:確率質量関数の計算
ポアソン分布の確率質量関数(PMF)は、特定の事象が発生する確率を表します。
SciPyのstatsモジュールを使用して、PMFを簡単に計算することができます。
実行結果
○サンプルコード3:累積分布関数の計算
累積分布関数(CDF)は、ある値以下の確率を累積的に表します。
CDFもstatsモジュールを使用して計算できます。
実行結果
○サンプルコード4:matplotlibでポアソン分布をグラフ化
計算した確率質量関数と累積分布関数をグラフ化することで、ポアソン分布の特性をより直感的に理解することができます。
このコードを実行すると、PMFとCDFのグラフが表示されます。
PMFのグラフでは、k=3付近でピークを持つ分布が確認できます。
CDFのグラフでは、確率が段階的に増加し、最終的に1に近づく様子が観察できます。
○サンプルコード5:パラメータλの変化による分布の変化を可視化
ポアソン分布のパラメータλ(平均値)を変化させると、分布の形状がどのように変わるかを視覚的に確認することができます。
このコードを実行すると、異なるλ値に対応するポアソン分布のPMFが1つのグラフ上に描画されます。
λが大きくなるにつれて、分布のピークが右に移動し、分布の幅が広がっていく様子が観察できます。
●ポアソン分布のパラメータ推定と統計検定
ポアソン分布を実際のデータ分析に活用する際、パラメータの推定や統計検定が重要な役割を果たします。
データから適切なモデルを構築し、仮説を検証するためには、これらの技術が不可欠です。
○サンプルコード6:最大尤度法によるλの推定
最大尤度法は、観測されたデータが得られる確率が最大になるようなパラメータを推定する方法です。
ポアソン分布のパラメータλを推定する場合、サンプルの平均値がλの最尤推定量となります。
実行結果
この結果から、最尤推定法によって真のλに近い値が推定されていることがわかります。
実際のデータ解析では、この手法を用いて未知のλを推定することができます。
○サンプルコード7:カイ二乗検定の実装
カイ二乗検定は、観測されたデータが理論的な分布(ここではポアソン分布)に従うかどうかを検証するために使用されます。
実行結果
p値が0.05より大きいため、通常は帰無仮説(データがポアソン分布に従う)を棄却しません。
つまり、このサンプルデータはポアソン分布に従っていると考えられます。
○サンプルコード8:ポアソン分布に基づく仮説検定
ポアソン分布に基づく仮説検定の例として、2つの異なるポアソン分布のλが等しいかどうかを検定する方法を紹介します。
実行結果
p値が非常に小さいため、帰無仮説(2つの分布のλが等しい)を棄却します。
つまり、2つの分布のλは統計的に有意に異なると結論付けられます。
●よくあるエラーと対処法
ポアソン分布を扱う際に遭遇しがちなエラーとその対処法について説明します。
○データ型の不一致によるエラー
ポアソン分布は離散分布であるため、整数値のデータを扱う必要があります。
浮動小数点数を使用すると、予期せぬエラーが発生する可能性があります。
例えば、次のコードはエラーを引き起こします。
このエラーを回避するには、λパラメータを整数に丸める必要があります。
実行結果
○大きな値での数値計算の不安定性
ポアソン分布のλが非常に大きい場合、数値計算が不安定になることがあります。
例えば、次のコードは警告を発生させる可能性があります。
実行結果
警告が出る場合、対数スケールで計算を行うことで精度を向上させることができます。
○ゼロ割り問題の回避方法
ポアソン分布を扱う際、特にλが0に近い場合にゼロ割りの問題が発生する可能性があります。
例えば、λ=0でポアソン分布の平均を計算しようとすると、エラーが発生します。
このようなケースでは、条件分岐を使用してゼロ割りを回避できます。
実行結果
●ポアソン分布の応用例
ポアソン分布は、実務の様々な場面で活用できる便利な統計モデルです。
例えば、製造業での故障率予測、小売業での顧客到着率分析、機械学習モデルの構築などに広く応用されています。
実際のデータを用いて、Pythonでポアソン分布を活用する方法を具体的に見ていきましょう。
○サンプルコード9:故障率予測モデルの構築
製造業において、製品の故障率を予測することは品質管理の観点から非常に重要です。
ある期間内に発生する故障数がポアソン分布に従うと仮定し、過去のデータから将来の故障率を予測するモデルを構築してみます。
実行結果
このコードでは、過去の故障データからλを推定し、それを基に将来30日間の故障数を予測しています。
グラフを見ると、日々の変動はありますが、平均故障数の周りでばらついている様子が分かります。
製造プロセスの改善や予防保全の計画立案に役立つでしょう。
○サンプルコード10:顧客到着率分析
小売店やサービス業では、時間帯ごとの顧客到着率を把握することが重要です。
ポアソン分布を使って、顧客の到着パターンをモデル化し、適切な人員配置を計画することができます。
実行結果
このコードは、時間帯ごとの平均顧客数(λ)を基に、1週間分の顧客到着をシミュレートしています。
結果のグラフから、顧客数の日内変動パターンと、各時間帯の予測の不確実性(信頼区間)を視覚的に把握できます。
ピーク時の予測顧客数範囲も算出されており、適切なスタッフ配置の参考になるでしょう。
○サンプルコード11:機械学習モデルへのポアソン分布の組み込み
機械学習の文脈で、ポアソン分布は count data(数え上げデータ)のモデリングによく使用されます。
例えば、ある特性を持つ顧客が1日に何回購入するかを予測するモデルを考えてみましょう。
実行結果
このコードでは、scikit-learnのPoissonRegressorを使用してポアソン回帰モデルを構築しています。
2つの特徴量を基に、ポアソン分布に従う目的変数を予測しています。
モデルの性能は平均二乗誤差と平均絶対誤差で評価され、予測値と実際の値の散布図も描画されています。
○サンプルコード12:ポアソン回帰の実装
最後に、ポアソン回帰をより詳細に実装し、モデルの解釈を行う例を見てみましょう。
ここでは、広告費用と商品の売上個数の関係をモデル化します。
実行結果
このコードでは、statsmodelsライブラリを使用してポアソン回帰モデルを構築しています。
モデルの要約から、広告費用が売上個数に統計的に有意な正の影響を与えていることが分かります。
また、広告費用の増加に伴う売上個数の期待値の変化も計算しており、マーケティング戦略の立案に役立つ情報を提供しています。
まとめ
ポアソン分布は、離散的なイベントの発生回数を模擬するための確率分布として、多くの実務場面で活用されています。
Pythonを使用することで、ポアソン分布の理論的な側面から実践的な応用まで、幅広く扱うことができます。
本記事で学んだ知識を基に、より複雑なデータ分析や予測モデルの構築に挑戦してみてください。