5ステップで学ぶObjective-Cの並列処理

Objective-Cでの並列処理を表すコード例と説明 Objctive-C
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基本的な知識があればサンプルコードを活用して機能追加、目的を達成できるように作ってあります。

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はじめに

Objective-Cは長い歴史を持つプログラミング言語で、主にAppleのOS XやiOSのアプリケーション開発に使用されています。

C言語にオブジェクト指向機能を追加した形を取っており、その構文はC++やJavaといった他のオブジェクト指向言語に似ている部分もあれば、Smalltalkに由来する独特の特徴も持っています。

この記事では、Objective-Cによる並列処理の学習を5つのステップに分けて説明し、読者がiOSアプリケーションのパフォーマンスを向上させるための基礎知識を身につけることができるようにします。

●Objective-Cとは

Objective-Cは1980年代にBrad CoxとTom Loveによって開発された言語で、AppleのNeXTがその後の開発を担当しました。

Objective-CはC言語の「スーパーセット」として設計されており、C言語のコードがそのままObjective-Cで機能する一方で、Smalltalkの影響を受けたメッセージ指向のプログラミングスタイルを採用しています。

この言語は、豊富なライブラリとフレームワーク、特にCocoaとCocoa Touchフレームワークによって、iOSやMacのアプリケーション開発に欠かせないものとなっています。

○Objective-Cの基本

Objective-Cでの開発においては、クラス宣言、クラス定義、メソッドの宣言と実装といった基本的なオブジェクト指向の概念を理解することが必要です。

メモリ管理もObjective-Cの重要な特徴であり、ARC(Automatic Reference Counting)により、参照カウントを基にしたガーベージコレクションが自動的に行われます。

これにより開発者はメモリリークのリスクを低減しつつ、より集中してコーディングに取り組むことが可能になります。

○Objective-Cでプログラミングを始める前に

Objective-Cのプログラムを書き始める前に、基本的な開発環境の設定が完了していることを確認する必要があります。

XcodeはAppleの公式開発環境であり、Objective-Cの開発に必要なすべてのツールとライブラリを含んでいます。

また、Objective-Cには独自のコーディング規約が存在し、清潔なコードを保つためにこれらの規約を学ぶことも重要です。

さらに、マルチスレッディングや並列処理などの高度なテクニックを理解し適用するためには、基本的なシンタックスとプログラミングの流れをマスターすることが前提となります。

●並列処理とは

並列処理は、複数の処理を同時に実行することを指します。

コンピューターのCPUが複数のコアを持つ現代において、この技術は非常に重要です。

一つのプロセス内で複数のスレッドを走らせるマルチスレッディングや、複数のプロセスを同時に実行するマルチプロセッシングなど、様々な方法が存在します。

Objective-Cにおいては、これらの処理を効果的に行うための多数のAPIが提供されています。

これにはNSThread、NSOperation、そしてGrand Central Dispatch(GCD)が含まれます。

並列処理は、アプリケーションのパフォーマンス向上に寄与し、ユーザーにとって快適な体験を提供するために不可欠です。

○並列処理のメリット

並列処理は多くのメリットを提供します。

一番の利点はパフォーマンスの向上です。

複数のタスクを同時に実行することで、アプリケーションの処理速度を向上させることができます。

また、リソースの有効活用もこの技術の利点の一つです。例えば、一つのコアがI/Oの待機中でも、他のコアが計算処理を続けることができます。

さらに、ユーザー体験の改善も見逃せない利点です。

重たい処理をバックグラウンドで行いながらも、フロントエンドのUIがスムーズに動作することは、ユーザーのストレスを軽減します。

○並列処理の基本概念

並列処理を実装する前に、いくつかの基本概念を理解する必要があります。

最も基本的な概念はスレッドです。

スレッドはプロセス内で実行される実行の単位で、各スレッドは独自の実行コンテキストを持ちます。

複数のスレッドが同時に走ることで、並列処理が実現されます。

しかし、スレッドが多ければ多いほど良いというわけではありません。

スレッドの作成と管理にはコストがかかり、過剰なスレッディングはパフォーマンスの低下を招くことがあります。

また、スレッド間でリソースを共有する場合には、デッドロックやデータの不整合といった問題が生じる可能性があるため注意が必要です。

そのため、Objective-CではNSOperationやGCDのような抽象化されたAPIを利用して、これらの問題を緩和しやすい方法で並列処理を実装することが推奨されています。

●Objective-Cにおける並列処理の実装方法

Objective-CでiOSアプリケーションのパフォーマンス向上を図る上で並列処理は重要な概念です。

並列処理には複数の手法が存在し、その中でもスレッドの使用や、NSOperationクラス、Grand Central Dispatch (GCD) といった技術が一般的です。

ここではObjective-Cにおける並列処理の実装方法として、スレッドを用いた基本的なアプローチを解説し、その後、スレッド間のデータ共有についての実装例を挙げます。

○スレッドを使用した並列処理

Objective-Cにおいて、スレッドは低レベルAPIとしてNSThreadクラスを用いることで直接管理することができます。

NSThreadを使用すると、新しいスレッドを生成し、特定のタスクをバックグラウンドで実行することが可能になります。

しかし、直接のスレッドの管理はデッドロックのリスクやスレッドセーフティの確保といった複雑性を伴います。

したがって、より抽象化されたNSOperationやGCDの使用が推奨されますが、まずはNSThreadの基本を理解することから始めましょう。

□サンプルコード1:スレッドを生成する基本的な方法

下記のサンプルコードは、Objective-Cで新しいスレッドを生成し、そのスレッドでメソッドを実行する一例です。

// 新しいスレッドで実行されるメソッド
- (void)myThreadMainMethod {
    @autoreleasepool {
        // スレッドのメイン処理をここに記述
        NSLog(@"新しいスレッドで処理を実行");
    }
}

// スレッドを生成して実行する
- (void)startMyThread {
    NSThread *myThread = [[NSThread alloc] initWithTarget:self 
                                                  selector:@selector(myThreadMainMethod) 
                                                    object:nil];
    [myThread start]; // スレッドを開始
}

このコードでは、myThreadMainMethodを新しいスレッドで実行しています。

startMyThreadメソッドにより、NSThreadクラスを初期化し、指定したセレクター(この場合はmyThreadMainMethod)を新しいスレッドで実行します。

スレッドがstartメソッドによって開始されると、myThreadMainMethodが呼び出されます。

自動解放プールを使用する理由は、新しいスレッドではメインスレッドのautorelease poolが自動的には提供されないためです。

□サンプルコード2:スレッド間のデータ共有

スレッド間でデータを安全に共有するためには、同期メカニズムを適切に使用する必要があります。

ここでは、スレッドセーフな方法で共有データへのアクセスを行う例を紹介します。

// スレッドセーフなデータ共有のためのクラス
@interface ThreadSafeDataSharing : NSObject {
    dispatch_queue_t syncQueue; // データへの同期アクセス用のキュー
    NSMutableArray *sharedArray; // 共有される配列
}

@end

@implementation ThreadSafeDataSharing

- (id)init {
    if (self = [super init]) {
        syncQueue = dispatch_queue_create("com.example.syncQueue", NULL);
        sharedArray = [[NSMutableArray alloc] init];
    }
    return self;
}

// スレッドセーフな方法で共有データにアクセス
- (void)addObjectToSharedArray:(id)object {
    // キューにブロックを非同期で追加し、共有データへのアクセスを同期
    dispatch_async(syncQueue, ^{
        [sharedArray addObject:object];
        NSLog(@"オブジェクトを追加: %@", object);
    });
}

@end

この例では、ディスパッチキューを使用して配列へのアクセスを同期しています。

ThreadSafeDataSharingクラスは、initメソッドで同期キューと共有配列を初期化します。

addObjectToSharedArrayメソッドでは、オブジェクトを配列に追加する前に、ディスパッチキューを通じて操作を同期しています。

これにより、複数のスレッドからのアクセスがあっても、配列へのアクセスが衝突しないようになります。

このコードを実行すると、共有配列へのアクセスが同期されるため、複数のスレッドから安全にアクセスできるようになります。

アクセスが完了すると、コンソールに追加したオブジェクトの情報が出力されます。

このような同期メカニズムを使うことで、データ整合性を保ちながら複数のスレッドが効果的に共同作業を行うことが可能です。

○NSOperationを使用した並列処理

iOSアプリケーション開発において、NSOperationとNSOperationQueueを用いた並列処理は、複数のタスクを効率的に管理し、実行する強力なメカニズムを提供します。

NSOperationは単一のタスクをカプセル化するオブジェクトで、NSOperationQueueはこれらのオペレーションを管理し、非同期で実行するためのクラスです。

このアプローチを用いることで、開発者は複雑なスレッド管理やロック処理を意識することなく、並行処理を簡単に実装することができます。

□サンプルコード3:NSOperationQueueでの作業管理

このコードではNSOperationQueueとNSOperationを使って、並列作業を管理する方法を表しています。

この例ではカスタムオペレーションを作成し、それをキューに追加しています。

NSOperationQueueはオペレーションの実行を自動で並列化し、タスクの優先順位や準備状態に応じて適切なタイミングで実行を開始します。

// カスタムNSOperationクラスの定義
@interface MyOperation : NSOperation
@end

@implementation MyOperation
- (void)main {
    // ここに長い実行タイムを必要とする作業を書く
    if (self.isCancelled) return; // オペレーションがキャンセルされているか確認
    NSLog(@"Operation is being executed");
}
@end

// オペレーションをキューに追加する
NSOperationQueue *queue = [[NSOperationQueue alloc] init];
MyOperation *operation = [[MyOperation alloc] init];
[queue addOperation:operation];

このコードを実行すると、MyOperation オブジェクトが作成され、新しく生成されたNSOperationQueueに追加されます。

キューは追加されたオペレーションを管理し、適切なタイミングでmainメソッドを呼び出して作業を開始します。

オペレーションがキャンセルされた状況を検出するためのチェックも含まれており、これにより不要な作業が行われるのを防ぎます。

ログ出力によって、オペレーションの実行開始が確認できます。

□サンプルコード4:NSOperationをカスタマイズする

NSOperationをカスタマイズする際には、基本クラスのmainメソッドをオーバーライドして、独自の実行コードを提供します。

下記の例では、進捗状況を監視し、完了時に状態を更新するカスタムオペレーションを表しています。

// カスタムNSOperationの進捗状況を管理する
@interface ProgressOperation : NSOperation
@property (assign, nonatomic) float progress;
@end

@implementation ProgressOperation
- (void)main {
    for (float i = 0; i <= 1.0f; i += 0.1f) {
        // オペレーションがキャンセルされた場合は、ループを抜ける
        if (self.isCancelled) break;
        // 進捗を更新する
        [self setProgress:i];
        // 進捗をコンソールに表示する
        NSLog(@"Progress: %.2f", self.progress);
        // 模擬的に時間のかかる作業を表現するためにスリープを入れる
        [NSThread sleepForTimeInterval:1];
    }
}
@end

// 進捗状況を監視するオペレーションをキューに追加する
NSOperationQueue *progressQueue = [[NSOperationQueue alloc] init];
ProgressOperation *progressOperation = [[ProgressOperation alloc] init];
[progressQueue addOperation:progressOperation];

このコードではProgressOperationが一定間隔で自身の進捗を更新し、その進捗をログに出力します。

ループ内でisCancelledプロパティを確認することにより、オペレーションがキャンセルされたかどうかをチェックし、必要に応じて早期に終了させることができます。

オペレーションがキューに追加されると、自動的に実行がスケジュールされ、定義された作業を順に実行します。

○Grand Central Dispatch(GCD)を使用した並列処理

GCDのコアとなる概念は、タスクを実行するためのキューであり、これには二種類あります。

シリアルディスパッチキューはタスクを一度に一つずつ実行し、一方、コンカレントディスパッチキューは複数のタスクを同時に実行できます。

GCDを効果的に使用するためには、これらのキューをどのように使用するかを理解する必要があります。

アプリケーションの要件に応じて、適切なキュータイプを選択することが重要です。

□サンプルコード5:GCDを利用した基本的な並列処理

こちらのサンプルコードでは、Objective-CでGCDを使って並列処理を行う基本的な方法を表しています。

この例では、メインキュー以外に非同期でタスクを実行するためにグローバルディスパッチキューを利用し、簡単な計算を行うタスクを非同期で実行しています。

// Objective-CにおけるGCDの基本的な使用例
dispatch_async(dispatch_get_global_queue(DISPATCH_QUEUE_PRIORITY_DEFAULT, 0), ^{
    // ここに非同期で実行したい処理を書きます
    int sum = 0;
    for (int i = 0; i < 10000; i++) {
        sum += i;
    }

    // 非同期処理が完了した後にメインスレッドで実行したい処理を記述します
    dispatch_async(dispatch_get_main_queue(), ^{
        // 例えば、UIを更新するコードなどがここに入ります
        NSLog(@"計算結果: %d", sum);
    });
});

このコードでは、まずグローバルディスパッチキューを取得し、そのキューに非同期で実行するブロックを渡しています。

forループによる計算処理は、別スレッドで行われるため、この処理がメインスレッドの実行をブロックすることはありません。

その後、計算が完了すると、結果をメインスレッドであるUIスレッドに渡し、例えば計算結果をログに表示します。

このコードを実行すると、NSLogにより出力される計算結果はメインスレッドで安全に更新され、UI操作が必要な場合はこのパターンを使ってメインスレッドに戻すことができます。

こうすることで、アプリケーションの応答性を維持しつつ、長時間かかる計算処理を効率よく実行することが可能になります。

□サンプルコード6:GCDのグループとキュー管理

下記のサンプルコードは、GCDのグループを使って、複数の並列タスクが全て完了するのを待つ方法を表しています。

グループを使用することで、複数の非同期タスクの完了を同期させ、全てのタスクが終わったことを検知し次の処理を行うことができます。

// GCDグループを使用して複数の非同期タスクを管理する例
dispatch_group_t group = dispatch_group_create();

// グループにタスクを追加する
dispatch_group_async(group, dispatch_get_global_queue(DISPATCH_QUEUE_PRIORITY_HIGH, 0), ^{
    // タスク1: 高優先度で実行します
    NSLog(@"タスク1を実行");
});

dispatch_group_async(group, dispatch_get_global_queue(DISPATCH_QUEUE_PRIORITY_DEFAULT, 0), ^{
    // タスク2: 通常の優先度で実行します
    NSLog(@"タスク2を実行");
});

// 全てのタスクが完了したことを検知して処理を行う
dispatch_group_notify(group, dispatch_get_main_queue(), ^{
    // 全てのタスクが完了したらメインスレッドで実行する処理
    NSLog(@"全てのタスクが完了した");
});

// グループを解放する(ARCを使用していない場合)
// dispatch_release(group);

このコードでは、dispatch_group_createで新しいグループを作成し、dispatch_group_asyncを使ってこのグループにタスクを追加しています。

追加されたタスクは指定された優先度のキューで実行されます。

全てのタスクが完了したことをdispatch_group_notifyで検知し、指定されたブロックをメインキューで実行しています。

これにより、全タスクの完了後に必要な処理をUIスレッドで安全に行うことができます。

●並列処理の応用例

Objective-Cを使用したiOSアプリケーション開発において、並列処理はアプリのパフォーマンス向上に不可欠です。

ユーザーがよりスムーズな体験を得られるよう、データ処理や入出力操作を複数の作業に分割して同時に行うことが求められます。

ここでは、Objective-Cにおける並列処理の実用的な応用例をいくつか紹介し、それらを実現するコード例とその解説を行います。

○サンプルコード7:並列処理を使ったデータダウンロード

データのダウンロードはアプリの反応性に大きく影響を及ぼすため、非同期の並列処理によりユーザー体験を向上させることができます。

下記の例では、GCDを使って画像データをダウンロードする方法を表しています。

// ダウンロードするURLを設定
NSURL *url = [NSURL URLWithString:@"http://example.com/image.png"];
// 非同期処理のためのキューを作成
dispatch_queue_t downloadQueue = dispatch_queue_create("com.example.downloadQueue", NULL);

dispatch_async(downloadQueue, ^{
    // URLからデータをダウンロード
    NSData *data = [NSData dataWithContentsOfURL:url];
    if (data) {
        // メインスレッドで画像をUIにセット
        dispatch_async(dispatch_get_main_queue(), ^{
            UIImage *image = [UIImage imageWithData:data];
            // imageViewに画像をセットする想定のコード
            // imageView.image = image;
        });
    }
});

このコードでは、dispatch_queue_createを使ってダウンロード処理用のキューを作成しています。

dispatch_asyncを利用することで、指定されたキューにダウンロードのタスクを非同期で送り、メインスレッドでのUI更新を行っています。

この例では、NSDatadataWithContentsOfURLメソッドでネットワークからデータを取得し、取得したデータからUIImageオブジェクトを生成し、それをUIに表示しています。

○サンプルコード8:並列処理を利用した高度なデータ処理

アプリケーションでは複雑なデータ処理を背後で行い、結果をユーザーに提供する必要がある場合があります。

下記のサンプルでは、GCDを使って並列でデータ処理を行う方法を表しています。

// 処理するデータの配列
NSArray *dataArray = @[@"Data1", @"Data2", @"Data3", @"Data4"];
// 処理を行うための並列キューを作成
dispatch_queue_t processingQueue = dispatch_queue_create("com.example.processingQueue", DISPATCH_QUEUE_CONCURRENT);

for (NSString *data in dataArray) {
    dispatch_async(processingQueue, ^{
        // 何らかのデータ処理を行う想定のコード
        // processedData = [self processTheData:data];
        // 処理が完了したデータをメインスレッドで扱うためのコード
        // ...
    });
}

このコードでは、DISPATCH_QUEUE_CONCURRENTオプションを使って同時実行可能なキューを生成し、そのキューを使って配列内の各データに対して非同期で処理を行っています。

forループを使用することで、配列内の各要素を並列に処理し、これにより処理時間を短縮することが可能になります。

○サンプルコード9:UIの応答性の向上を目指す

ユーザーインターフェースの応答性は、使用中のアプリの印象を大きく左右します。

重い処理をバックグラウンドで実行し、UIスレッドをブロックしないようにすることが重要です。

下記のコード例では、ユーザーインターフェイスの更新を応答性良く保つために、GCDを利用したアプローチを説明します。

// ユーザーインターフェースの更新を行うコード
// 例えばUITableViewのデータソースの更新などを想定
dispatch_async(dispatch_get_global_queue(DISPATCH_QUEUE_PRIORITY_DEFAULT, 0), ^{
    // 重たい処理やデータのフェッチを行う
    // fetchedData = [self fetchDataFromServer];

    // データ処理が完了したらメインキューに戻す
    dispatch_async(dispatch_get_main_queue(), ^{
        // UIの更新を行う
        // [self.tableView reloadData];
    });
});

上記のサンプルコードで表されるパターンは、処理の完了を待ってからUIを更新する典型的なパターンです。

dispatch_get_global_queueを使用して、優先度デフォルトのグローバルキューに処理を投げ、その後、完了した処理に基づいてメインスレッドでUIを更新します。

●並列処理の詳細な注意点

並列処理はアプリケーションのパフォーマンスを大幅に向上させることができますが、同時に多くの問題を引き起こす可能性もあります。

安全な並列処理を行うためには、いくつかの重要な注意点を理解し、適切に対応する必要があります。

○デッドロックの回避

デッドロックは、複数のスレッドがお互いに対する処理の完了を無限に待ち続ける状態を指します。

これはスレッドがリソースを独占し合い、他のスレッドがそのリソースへのアクセスを必要とする際に起こり得ます。

デッドロックを回避するには、リソースへのアクセスを管理する順序を定義し、常に一貫した順序でロックを取得することが重要です。

例えば、スレッドAがリソース1をロックしてからリソース2をロックしようとするとき、スレッドBがリソース2をロックした後でリソース1をロックしようとしている場合、どちらのスレッドも進行できなくなります。

このような状況を避けるために、全てのスレッドがリソース1を先にロックし、次いでリソース2をロックするという規約を設けるのです。

○リソース競合の管理

複数のスレッドが同時に同じデータにアクセスするときに、予期しない結果を招くリソース競合が発生することがあります。

リソース競合を避けるためには、アトミック操作、ロック、セマフォ、モニタなどの同期メカニズムを使用することが一般的です。

たとえば、スレッドセーフなカウンタのインクリメント操作は次のようなコードで表現できます。

// スレッドセーフなカウンタのインクリメント
@synchronized(self) {
    self.safeCounter++;
}

このコードでは@synchronizedディレクティブを使用しています。

この例では、safeCounterというプロパティを保持しているselfオブジェクトに対して、排他的アクセスを実現しています。

このブロック内でsafeCounterの値を変更するとき、他のスレッドはそのブロックの実行が完了するまでselfオブジェクトに対するアクセスがブロックされます。

○エラーハンドリングの実践

並列処理中に発生するエラーを適切に処理することは、アプリケーションの安定性と信頼性を確保するために非常に重要です。

エラーハンドリングを行う際には、例外処理機構を利用するか、エラーの発生を予測して適切に対応するロジックを組み込む必要があります。

エラーが発生した際に、それをキャッチし、適切な復旧処理を実行するコードの例は次の通りです。

@try {
    // 危険を伴う可能性のある処理
    [self performRiskyOperation];
} @catch (NSException *exception) {
    // エラーハンドリングのロジック
    NSLog(@"An exception occurred: %@", exception);
    // 適切な復旧処理
    [self recoverFromError];
} @finally {
    // エラーが発生しても実行される処理
    [self cleanupOperation];
}

この例では、performRiskyOperationメソッドで例外が発生する可能性があるため、@tryブロックで囲んでいます。

例外が捕捉された場合、@catchブロック内でログ出力と復旧処理を行います。

そして、@finallyブロックではエラーの有無に関わらず必要なクリーンアップを実行しています。

このように、並列処理ではエラーを適切に処理することで、予期せぬ挙動やクラッシュからアプリケーションを保護することが可能です。

●Objective-Cの並列処理をカスタマイズする

Objective-Cでのアプリケーション開発において、並列処理はアプリのパフォーマンスと応答性を向上させる重要なテクニックです。

並列処理をカスタマイズすることにより、特定のタスクに最適化された処理を実装することができ、これによりアプリケーションはより効率的に動作します。

Objective-Cで並列処理をカスタマイズするには、スレッドの生成と管理、NSOperationとNSOperationQueueの使用、そしてGrand Central Dispatch(GCD)を理解して利用することが必要です。

○カスタマイズの考え方

並列処理のカスタマイズにあたっては、処理を分散する方法、タスクの優先順位、実行する処理の種類、スレッド間の通信方法など、多くの要素を考慮する必要があります。

例えば、CPUの消費が重いタスクや、ネットワークリクエストのように待機時間が長いタスクをバックグラウンドスレッドで実行することで、メインスレッドのUI更新をスムーズに保つことができます。

また、GCDのディスパッチキューを使用してタスクを管理することで、コードをシンプルに保ちつつ効果的な並列処理を実現することができます。

○サンプルコード10:パフォーマンスのカスタマイズ

Objective-Cで並列処理のパフォーマンスをカスタマイズするためのコード例を紹介します。

// パフォーマンスをカスタマイズするための並列処理コード例
- (void)optimizePerformanceWithConcurrency {
    // 高性能が要求されるバックグラウンド処理を行うためのキューを作成
    dispatch_queue_t highPerformanceQueue = dispatch_get_global_queue(DISPATCH_QUEUE_PRIORITY_HIGH, 0);

    // 高性能を要求するタスクを非同期的に実行
    dispatch_async(highPerformanceQueue, ^{
        // ここでCPUを多用する処理を行う
        [self performHeavyComputation];

        // メインキューに戻してUIを更新
        dispatch_async(dispatch_get_main_queue(), ^{
            // UIの更新処理を行う
            [self updateUI];
        });
    });
}

- (void)performHeavyComputation {
    // 長時間実行される計算処理
    // 例: データの解析、計算など
}

- (void)updateUI {
    // 重い計算が完了した後でUIを更新
    // 例: プログレスバーの進捗を更新、結果を表示など
}

このコードでは、まずDISPATCH_QUEUE_PRIORITY_HIGHの優先順位を持つグローバルキューを取得しています。

これにより、高い優先順位で実行する必要があるタスクを指定しています。

次に、非同期関数dispatch_asyncを使ってバックグラウンドでperformHeavyComputationメソッドを実行します。

このメソッド内では、CPUを多用する重たい計算が行われると想定されます。

計算が終了したら、再び非同期関数を使ってメインスレッドに処理を切り替え、UIの更新をupdateUIメソッドで行います。

まとめ

Objective-Cによる並列処理はiOSアプリケーションのパフォーマンスを大幅に向上させることが可能です。

本記事では、並列処理の概要から具体的な実装方法に至るまで、5つの重要なステップに分けて解説してきました。

Objective-Cでの並列処理を学ぶことは、iOS開発者にとって有益な投資であり、この記事を通じてその入門知識を習得する手助けができれば幸いです。

今後のアプリ開発において、今回学んだ知識が大いに役立つことでしょう。