読み込み中...

Verilogを用いたMIPSプロセッサの基本構造と活用17選

MIPS 徹底解説 Verilog
この記事は約38分で読めます。

【サイト内のコードはご自由に個人利用・商用利用いただけます】

この記事では、プログラム(回路記述)の基礎知識を前提に話を進めています。

説明のためのコードや、サンプルコードもありますので、もちろん初心者でも理解できるように表現してあります。

本記事のサンプルコードを活用して機能追加、目的を達成できるように作ってありますので、是非ご活用ください。

※この記事は、一般的にプロフェッショナルの指標とされる『実務経験10,000時間以上』を満たす現役のプログラマチームによって監修されています。

※Japanシーモアは、常に解説内容のわかりやすさや記事の品質に注力しております。不具合、分かりにくい説明や不適切な表現、動かないコードなど気になることがございましたら、記事の品質向上の為にお問い合わせフォームにてご共有いただけますと幸いです。
(送信された情報は、プライバシーポリシーのもと、厳正に取扱い、処分させていただきます。)

●Verilogで作るMIPSプロセッサとは?

皆さんは、日々使用しているスマートフォンやパソコンの心臓部であるプロセッサに興味を持ったことはありますか?

今回は、Verilogというハードウェア記述言語を使用して、MIPSアーキテクチャに基づくプロセッサを設計する方法を探求していきます。

MIPSプロセッサは、シンプルさと効率性を兼ね備えた素晴らしいアーキテクチャです。

大学の授業や研究プロジェクトでよく取り上げられる題材でもあります。

Verilogを使うと、このMIPSプロセッサをハードウェアレベルで記述することができます。

○RISCアーキテクチャの特徴と利点

MIPSはRISC(Reduced Instruction Set Computer)アーキテクチャの一種です。

RISCアーキテクチャは、命令セットを単純化することで高速な処理を実現します。

複雑な命令を避け、単純な命令を組み合わせて処理を行うのが特徴です。

RISCアーキテクチャの利点は多岐にわたります。

まず、命令の実行時間が一定であるため、パイプライン処理が容易になります。

また、命令の形式が統一されているので、デコード(命令の解読)が簡単です。

さらに、レジスタの数が多いため、メモリアクセスを減らすことができます。

○Verilogによるハードウェア記述の基本

Verilogは、デジタル回路を記述するための言語です。

C言語に似た文法を持っていますが、並列処理を表現できる点が大きな特徴です。

Verilogを使うと、論理ゲートレベルから複雑なプロセッサまで、様々な規模のデジタル回路を設計することができます。

Verilogの基本的な構成要素は「モジュール」です。

モジュールは、入力と出力を持つ独立した回路ブロックを表します。

モジュール内部では、ワイヤやレジスタを使って信号の流れを記述します。

また、always文を使用して、特定のタイミングで実行される処理を記述することができます。

○サンプルコード1:簡単な論理回路の記述

では、具体的にVerilogのコードを見てみましょう。

ここでは、2入力ANDゲートを記述した簡単な例を紹介します。

module and_gate(
    input a,
    input b,
    output y
);

assign y = a & b;

endmodule

このコードでは、and_gateというモジュールを定義しています。

inputキーワードで入力を、outputキーワードで出力を指定しています。

assign文を使用して、出力yに入力abのAND演算結果を代入しています。

このような基本的な論理ゲートを組み合わせることで、より複雑な回路を構築していくのがVerilogによる設計の基本です。

●MIPSプロセッサの基本構造

MIPSプロセッサの構造を理解することは、コンピュータアーキテクチャの本質に迫る素晴らしい経験になります。

MIPSプロセッサは、主にレジスタファイル、算術論理演算ユニット(ALU)、制御ユニット、メモリインターフェースのコンポーネントで構成されています。

まずは、各コンポーネントの役割を簡単に説明しましょう。

レジスタファイルは、プロセッサ内部の高速なデータ保存領域です。

ALUは、加算や論理演算などの実際の計算を行います。

制御ユニットは、命令をデコードし、各コンポーネントの動作を制御します。

メモリインターフェースは、プロセッサとメインメモリの間でデータをやり取りする役割を担います。

○サンプルコード2:32ビットレジスタの定義

では、MIPSプロセッサの心臓部であるレジスタファイルを実装してみましょう。

次のコードは、32個の32ビットレジスタを持つレジスタファイルの基本的な実装をしています。

module register_file(
    input clk,
    input reset,
    input [4:0] read_reg1,
    input [4:0] read_reg2,
    input [4:0] write_reg,
    input [31:0] write_data,
    input reg_write,
    output [31:0] read_data1,
    output [31:0] read_data2
);

reg [31:0] registers [0:31];
integer i;

always @(posedge clk or posedge reset) begin
    if (reset) begin
        for (i = 0; i < 32; i = i + 1) begin
            registers[i] <= 32'b0;
        end
    end else if (reg_write) begin
        registers[write_reg] <= write_data;
    end
end

assign read_data1 = registers[read_reg1];
assign read_data2 = registers[read_reg2];

endmodule

このコードでは、registersという2次元配列を使用して32個の32ビットレジスタを表現しています。

alwaysブロック内では、リセット信号が入力された場合に全レジスタを0にリセットし、reg_write信号が有効な場合に指定されたレジスタにデータを書き込みます。

○サンプルコード3:基本的なALUの実装

次に、ALU(算術論理演算ユニット)の基本的な実装を見てみましょう。

ALUは、プロセッサの演算を担当する重要なコンポーネントです。

module alu(
    input [31:0] a,
    input [31:0] b,
    input [3:0] alu_control,
    output reg [31:0] result,
    output zero
);

always @(*) begin
    case (alu_control)
        4'b0000: result = a & b; // AND
        4'b0001: result = a | b; // OR
        4'b0010: result = a + b; // ADD
        4'b0110: result = a - b; // SUB
        4'b0111: result = (a < b) ? 32'd1 : 32'd0; // SLT
        default: result = 32'b0;
    endcase
end

assign zero = (result == 32'b0);

endmodule

このALUは、2つの32ビット入力abに対して、alu_control信号に基づいて演算を行います。

例えば、alu_control4'b0010の場合、加算演算を実行します。

zero信号は、結果が0の場合に1となり、分岐命令などで使用されます。

○サンプルコード4:制御ユニットの設計

制御ユニットは、命令をデコードし、他のコンポーネントの動作を制御する重要な役割を果たします。

module control_unit(
    input [5:0] opcode,
    output reg reg_dst,
    output reg branch,
    output reg mem_read,
    output reg mem_to_reg,
    output reg [1:0] alu_op,
    output reg mem_write,
    output reg alu_src,
    output reg reg_write
);

always @(*) begin
    case(opcode)
        6'b000000: begin // R-type
            reg_dst = 1'b1;
            alu_src = 1'b0;
            mem_to_reg = 1'b0;
            reg_write = 1'b1;
            mem_read = 1'b0;
            mem_write = 1'b0;
            branch = 1'b0;
            alu_op = 2'b10;
        end
        6'b100011: begin // lw
            reg_dst = 1'b0;
            alu_src = 1'b1;
            mem_to_reg = 1'b1;
            reg_write = 1'b1;
            mem_read = 1'b1;
            mem_write = 1'b0;
            branch = 1'b0;
            alu_op = 2'b00;
        end
        // その他の命令タイプも同様に実装
        default: begin
            // デフォルト値を設定
        end
    endcase
end

endmodule

この制御ユニットは、命令のオペコード(操作コード)を入力として受け取り、各種制御信号を出力します。

例えば、R型命令の場合、ALUを使用する演算を行い、結果をレジスタに書き戻すための信号を生成します。

○サンプルコード5:メモリインターフェースの構築

最後に、プロセッサとメインメモリを接続するメモリインターフェースの基本的な実装を見てみましょう。

module memory_interface(
    input clk,
    input [31:0] address,
    input [31:0] write_data,
    input mem_read,
    input mem_write,
    output reg [31:0] read_data
);

reg [31:0] memory [0:1023]; // 1024ワードのメモリ

always @(posedge clk) begin
    if (mem_write)
        memory[address[11:2]] <= write_data;
end

always @(*) begin
    if (mem_read)
        read_data = memory[address[11:2]];
    else
        read_data = 32'b0;
end

endmodule

このメモリインターフェースは、1024ワード(32ビット×1024)のメモリを模擬しています。

メモリへの書き込みはmem_write信号がアクティブな場合にクロックの立ち上がりエッジで行われ、読み出しはmem_read信号がアクティブな場合に非同期で行われます。

●Verilogで実装するMIPS命令セット

MIPSプロセッサの設計において、命令セットの実装は非常に重要な段階です。

命令セットは、プロセッサが理解し実行できる操作の集合体であり、プログラムの実行を可能にする基盤となります。

VerilogでMIPS命令セットを実装することで、プロセッサの動作をより具体的に理解することができます。

MIPS命令セットは、算術演算命令、論理演算命令、分岐命令、ロード/ストア命令など、様々な種類の命令で構成されています。

各命令タイプの実装方法を順に見ていきましょう。

○サンプルコード6:算術演算命令(ADD, SUB)の実装

算術演算命令は、数値計算の基本となる命令です。

加算(ADD)と減算(SUB)を例に取り、実装方法を解説します。

module arithmetic_unit(
    input [31:0] operand_a,
    input [31:0] operand_b,
    input [2:0] function_code,
    output reg [31:0] result
);

always @(*) begin
    case(function_code)
        3'b000: result = operand_a + operand_b; // ADD
        3'b001: result = operand_a - operand_b; // SUB
        default: result = 32'b0;
    endcase
end

endmodule

算術演算ユニットは、2つの32ビット入力(operand_a, operand_b)と3ビットの機能コード(function_code)を受け取ります。

always ブロック内のcase文で、機能コードに応じて加算または減算を実行します。

結果は32ビットの出力(result)に格納されます。

例えば、operand_a = 32’h00000005, operand_b = 32’h00000003, function_code = 3’b000 の場合、result = 32’h00000008 (10進数で8)となります。

○サンプルコード7:論理演算命令(AND, OR, XOR)の記述

論理演算命令は、ビット単位の操作を行う際に使用されます。

AND, OR, XOR命令の実装例を見てみましょう。

module logical_unit(
    input [31:0] operand_a,
    input [31:0] operand_b,
    input [2:0] function_code,
    output reg [31:0] result
);

always @(*) begin
    case(function_code)
        3'b000: result = operand_a & operand_b; // AND
        3'b001: result = operand_a | operand_b; // OR
        3'b010: result = operand_a ^ operand_b; // XOR
        default: result = 32'b0;
    endcase
end

endmodule

論理演算ユニットも算術演算ユニットと同様の構造を持ちます。

違いは、case文内で実行される演算が論理演算(AND, OR, XOR)になっている点です。

operand_a = 32’h0000000F, operand_b = 32’h000000F0, function_code = 3’b001 の場合、
result = 32’h000000FF (OR演算の結果)となります。

○サンプルコード8:分岐命令(BEQ, BNE)の設計

分岐命令は、プログラムの流れを制御する重要な命令です。

ここでは、等しい場合に分岐(BEQ)と等しくない場合に分岐(BNE)の実装を見てみましょう。

module branch_unit(
    input [31:0] operand_a,
    input [31:0] operand_b,
    input [1:0] branch_type,
    output reg branch_taken
);

always @(*) begin
    case(branch_type)
        2'b00: branch_taken = (operand_a == operand_b); // BEQ
        2'b01: branch_taken = (operand_a != operand_b); // BNE
        default: branch_taken = 1'b0;
    endcase
end

endmodule

分岐ユニットは、2つの操作数と分岐タイプを入力として受け取ります。

分岐条件が満たされた場合、branch_taken 信号が1になります。

operand_a = 32’h00000005, operand_b = 32’h00000005, branch_type = 2’b00 の場合、
branch_taken = 1’b1 (BEQ条件満たす)となります。

○サンプルコード9:ロード/ストア命令(LW, SW)の実装

ロード(LW)とストア(SW)命令は、メモリとレジスタ間でデータを転送する際に使用されます。

module memory_access_unit(
    input clk,
    input [31:0] address,
    input [31:0] write_data,
    input mem_read,
    input mem_write,
    output reg [31:0] read_data
);

reg [31:0] memory [0:1023]; // 1024ワードのメモリ

always @(posedge clk) begin
    if (mem_write)
        memory[address[11:2]] <= write_data;
end

always @(*) begin
    if (mem_read)
        read_data = memory[address[11:2]];
    else
        read_data = 32'b0;
end

endmodule

メモリアクセスユニットは、アドレス、書き込みデータ、読み書き制御信号を入力として受け取ります。

mem_write 信号がアクティブな場合、指定されたアドレスにデータを書き込みます(SW)。

mem_read 信号がアクティブな場合、指定されたアドレスからデータを読み出します(LW)。

例えば、address = 32’h00000004, write_data = 32’hAABBCCDD, mem_write = 1’b1 の場合、
memory[1] に 32’hAABBCCDD が書き込まれます。

●パイプライン化によるMIPSプロセッサの高速化

プロセッサの性能向上において、パイプライン化は非常に効果的な手法です。

パイプライン化とは、命令実行を複数の段階に分割し、各段階を並列に実行することで、全体的なスループットを向上させる技術です。

MIPSプロセッサの典型的なパイプラインは5段階で構成されます。

命令フェッチ(IF)、命令デコード(ID)、実行(EX)、メモリアクセス(MEM)、書き戻し(WB)の5段階です。

各段階をVerilogで実装し、それらを接続することでパイプライン化されたMIPSプロセッサを構築できます。

○サンプルコード10:5段パイプラインの基本構造

5段パイプラインの基本構造を実装してみましょう。

module mips_pipeline(
    input clk,
    input reset
);

// パイプラインステージ間のレジスタ
reg [31:0] IF_ID_IR, IF_ID_PC;
reg [31:0] ID_EX_IR, ID_EX_A, ID_EX_B, ID_EX_IMM;
reg [31:0] EX_MEM_IR, EX_MEM_ALUOut, EX_MEM_B;
reg [31:0] MEM_WB_IR, MEM_WB_ALUOut, MEM_WB_LMD;

// 各ステージの処理
always @(posedge clk or posedge reset) begin
    if (reset) begin
        // リセット処理
    end else begin
        // IF stage
        // ID stage
        // EX stage
        // MEM stage
        // WB stage
    end
end

endmodule

各パイプラインステージ間にレジスタを配置し、データの受け渡しを行います。

always ブロック内で、各ステージの処理を記述します。

○サンプルコード11:パイプラインレジスタの実装

パイプラインレジスタは、各ステージ間でデータを保持し、次のステージに渡す役割を果たします。

module pipeline_register(
    input clk,
    input reset,
    input [31:0] in_data,
    output reg [31:0] out_data
);

always @(posedge clk or posedge reset) begin
    if (reset)
        out_data <= 32'b0;
    else
        out_data <= in_data;
end

endmodule

このモジュールは、クロックの立ち上がりエッジでデータを更新します。

リセット信号が入力された場合、出力を0にリセットします。

○サンプルコード12:データハザード検出と転送の処理

データハザードは、パイプライン化されたプロセッサで発生する問題の1つです。

データハザードの検出と転送(フォワーディング)を実装してみましょう。

module hazard_detection_unit(
    input [4:0] rs, rt,
    input [4:0] ex_rd, mem_rd,
    input ex_reg_write, mem_reg_write,
    output reg [1:0] forward_a, forward_b
);

always @(*) begin
    // EXステージでのフォワーディング
    if (ex_reg_write && (ex_rd != 0) && (ex_rd == rs))
        forward_a = 2'b10;
    // MEMステージでのフォワーディング
    else if (mem_reg_write && (mem_rd != 0) && (mem_rd == rs))
        forward_a = 2'b01;
    else
        forward_a = 2'b00;

    // rtに対しても同様の処理
    if (ex_reg_write && (ex_rd != 0) && (ex_rd == rt))
        forward_b = 2'b10;
    else if (mem_reg_write && (mem_rd != 0) && (mem_rd == rt))
        forward_b = 2'b01;
    else
        forward_b = 2'b00;
end

endmodule

このユニットは、現在のステージで使用されるレジスタ(rs, rt)と、EXステージとMEMステージで書き込まれるレジスタ(ex_rd, mem_rd)を比較します。

データハザードが検出された場合、適切なフォワーディング信号を生成します。

○サンプルコード13:分岐予測の実装

分岐予測は、パイプラインの効率を向上させるための重要な技術です。

簡単な静的分岐予測の実装例を見てみましょう。

module branch_predictor(
    input [31:0] pc,
    input [31:0] instruction,
    output reg predict_taken
);

wire [5:0] opcode = instruction[31:26];
wire [15:0] immediate = instruction[15:0];

always @(*) begin
    // 常に分岐しないと予測(静的予測)
    predict_taken = 1'b0;

    // 後方分岐の場合は分岐すると予測
    if (opcode == 6'b000100 && immediate[15] == 1'b1)
        predict_taken = 1'b1;
end

endmodule

この分岐予測器は、分岐命令(opcode == 6’b000100)で、かつ即値が負(後方分岐)の場合に分岐すると予測します。

それ以外の場合は分岐しないと予測します。

●よくあるエラーと対処法

VerilogでMIPSプロセッサを設計する過程で、様々なエラーに遭遇することがあります。

初心者からベテランまで、誰もが直面する可能性のある問題です。

エラーを効率的に解決することは、プロセッサ設計の重要なスキルの一つです。

ここでは、頻繁に発生するエラーとその対処法について詳しく解説します。

○タイミング違反とその解決策

タイミング違反は、デジタル回路設計において最も厄介な問題の一つです。

信号が期待される時間内に目的地に到達しない場合に発生します。

タイミング違反の主な原因は、長すぎる組み合わせ論理パスです。

例えば、複雑な演算を一つのクロックサイクル内で完了しようとすると、タイミング違反が発生する可能性が高くなります。

解決策としては、パイプライン化が効果的です。

長い処理を複数のステージに分割することで、各ステージの処理時間を短縮できます。

// タイミング違反を起こしやすい設計
module long_path(
    input clk,
    input [31:0] a, b, c, d,
    output reg [31:0] result
);

always @(posedge clk) begin
    result <= ((a + b) * c) / d;
end

endmodule

// パイプライン化による改善
module pipelined_path(
    input clk,
    input [31:0] a, b, c, d,
    output reg [31:0] result
);

reg [31:0] stage1, stage2;

always @(posedge clk) begin
    stage1 <= a + b;
    stage2 <= stage1 * c;
    result <= stage2 / d;
end

endmodule

改善後のコードでは、複雑な演算を3つのステージに分割しています。

各ステージの処理時間が短くなるため、タイミング違反のリスクが減少します。

○シンタックスエラーの一般的な原因

シンタックスエラーは、Verilogの文法規則に違反した場合に発生します。

初心者が陥りやすい罠ですが、ベテランでも油断すると起こしがちです。

よくあるシンタックスエラーの例として、セミコロンの欠落があります。

Verilogでは、多くの文がセミコロンで終わる必要があります。

// エラーを含むコード
module syntax_error(
    input a,
    input b,
    output y
);

assign y = a & b  // セミコロンが欠落している

endmodule

// 修正後のコード
module syntax_error_fixed(
    input a,
    input b,
    output y
);

assign y = a & b;  // セミコロンを追加

endmodule

また、大文字と小文字の区別も重要です。

Verilogは大文字と小文字を区別する言語です。

例えば、wireWireは異なる識別子として扱われます。

シンタックスエラーの対処法としては、エラーメッセージを注意深く読み、指摘された行を確認することが重要です。

また、良質なVerilogエディタやIDEを使用することで、多くのシンタックスエラーを事前に防ぐことができます。

○シミュレーション時のバグ特定テクニック

シミュレーションは、実際のハードウェアに実装する前に設計の正確性を確認する重要なステップです。

しかし、シミュレーション結果が期待通りでない場合、バグの特定に苦労することがあります。

効果的なバグ特定テクニックの一つは、波形ビューアの活用です。

波形ビューアを使用すると、各信号の値の変化を時間軸に沿って視覚的に確認できます。

module debug_example(
    input clk,
    input reset,
    input [7:0] data_in,
    output reg [7:0] data_out
);

reg [7:0] internal_state;

// デバッグ用の信号
wire debug_condition = (data_in == 8'hFF);

always @(posedge clk or posedge reset) begin
    if (reset) begin
        internal_state <= 8'h00;
        data_out <= 8'h00;
    end else begin
        if (debug_condition) begin
            internal_state <= data_in;
        end else begin
            internal_state <= internal_state + 1;
        end
        data_out <= internal_state;
    end
end

endmodule

このコードでは、debug_conditionという信号を追加しています。

この信号は特定の条件(この場合、data_inが0xFF)で真になります。

波形ビューアでこの信号を観察することで、問題が発生する条件を特定しやすくなります。

また、$display文を使用してコンソールに情報を出力することも、バグ特定に役立ちます。

always @(posedge clk) begin
    $display("Time %t: data_in = %h, internal_state = %h, data_out = %h", 
             $time, data_in, internal_state, data_out);
end

このような出力を分析することで、バグの原因を特定しやすくなります。

●MIPSプロセッサの応用例

MIPSプロセッサの設計スキルを身につけると、様々な応用が可能になります。

ここでは、実践的なプロジェクト例をいくつか紹介します。

○サンプルコード14:簡易カリキュレータの実装

MIPSプロセッサを使用して、基本的な四則演算を行うカリキュレータを実装してみましょう。

module simple_calculator(
    input clk,
    input reset,
    input [3:0] operation,  // 0: 加算, 1: 減算, 2: 乗算, 3: 除算
    input [31:0] operand_a,
    input [31:0] operand_b,
    output reg [31:0] result,
    output reg error  // 0除算エラーフラグ
);

always @(posedge clk or posedge reset) begin
    if (reset) begin
        result <= 32'h00000000;
        error <= 1'b0;
    end else begin
        case (operation)
            4'b0000: result <= operand_a + operand_b;
            4'b0001: result <= operand_a - operand_b;
            4'b0010: result <= operand_a * operand_b;
            4'b0011: begin
                if (operand_b == 32'h00000000) begin
                    error <= 1'b1;
                    result <= 32'hFFFFFFFF;  // エラー値
                end else begin
                    error <= 1'b0;
                    result <= operand_a / operand_b;
                end
            end
            default: result <= 32'h00000000;
        endcase
    end
end

endmodule

このモジュールは、2つの32ビットオペランドと4ビットの演算コードを入力として受け取り、結果を出力します。

除算の場合、0除算を検出してエラーフラグを設定します。

○サンプルコード15:画像処理用コプロセッサの設計

MIPSプロセッサに画像処理用のコプロセッサを追加することで、画像処理タスクを高速化できます。

ここでは、簡単な輝度反転処理を行うコプロセッサの例を紹介します。

module image_coprocessor(
    input clk,
    input reset,
    input [7:0] pixel_in,
    input process_enable,
    output reg [7:0] pixel_out
);

always @(posedge clk or posedge reset) begin
    if (reset) begin
        pixel_out <= 8'h00;
    end else if (process_enable) begin
        pixel_out <= 8'hFF - pixel_in;  // 輝度反転
    end
end

endmodule

このコプロセッサは、8ビットのグレースケールピクセル値を入力として受け取り、その輝度を反転させます。

MIPSプロセッサと組み合わせることで、画像処理タスクを効率的に実行できます。

○サンプルコード16:IOインターフェースの追加

実用的なMIPSプロセッサシステムを構築するには、外部とのインターフェースが必要です。

次のコードは、簡単なUART(汎用非同期送受信器)インターフェースの例です。

module uart_interface(
    input clk,
    input reset,
    input rx,
    output tx,
    input [7:0] tx_data,
    input tx_start,
    output reg [7:0] rx_data,
    output reg rx_done,
    output reg tx_busy
);

// UART parameters
parameter CLKS_PER_BIT = 100;  // クロック周波数 / ボーレート

// State machine states
parameter IDLE = 2'b00;
parameter START_BIT = 2'b01;
parameter DATA_BITS = 2'b10;
parameter STOP_BIT = 2'b11;

reg [1:0] rx_state = IDLE;
reg [1:0] tx_state = IDLE;
reg [7:0] rx_shift_reg;
reg [7:0] tx_shift_reg;
reg [7:0] bit_counter;
reg [7:0] clk_counter;

// Receiver logic
always @(posedge clk or posedge reset) begin
    if (reset) begin
        rx_state <= IDLE;
        rx_data <= 8'h00;
        rx_done <= 1'b0;
    end else begin
        case (rx_state)
            IDLE: begin
                if (rx == 1'b0) begin  // Start bit detected
                    rx_state <= START_BIT;
                    bit_counter <= 8'h00;
                    clk_counter <= 8'h00;
                end
            end
            START_BIT: begin
                if (clk_counter == CLKS_PER_BIT - 1) begin
                    rx_state <= DATA_BITS;
                    clk_counter <= 8'h00;
                end else begin
                    clk_counter <= clk_counter + 1;
                end
            end
            DATA_BITS: begin
                if (clk_counter == CLKS_PER_BIT - 1) begin
                    clk_counter <= 8'h00;
                    rx_shift_reg <= {rx, rx_shift_reg[7:1]};
                    if (bit_counter == 7) begin
                        rx_state <= STOP_BIT;
                    end else begin
                        bit_counter <= bit_counter + 1;
                    end
                end else begin
                    clk_counter <= clk_counter + 1;
                end
            end
            STOP_BIT: begin
                if (clk_counter == CLKS_PER_BIT - 1) begin
                    rx_state <= IDLE;
                    rx_data <= rx_shift_reg;
                    rx_done <= 1'b1;
                end else begin
                    clk_counter <= clk_counter + 1;
                end
            end
        endcase
    end
end

// Transmitter logic
always @(posedge clk or posedge reset) begin
    if (reset) begin
        tx_state <= IDLE;
        tx_busy <= 1'b0;
    end else begin
        case (tx_state)
            IDLE: begin
                if (tx_start) begin
                    tx_state <= START_BIT;
                    tx_shift_reg <= tx_data;
                    tx_busy <= 1'b1;
                    bit_counter <= 8'h00;
                    clk_counter <= 8'h00;
                end
            end
            START_BIT: begin
                if (clk_counter == CLKS_PER_BIT - 1) begin
                    tx_state <= DATA_BITS;
                    clk_counter <= 8'h00;
                end else begin
                    clk_counter <= clk_counter + 1;
                end
            end
            DATA_BITS: begin
                if (clk_counter == CLKS_PER_BIT - 1) begin
                    clk_counter <= 8'h00;
                    tx_shift_reg <= {1'b0, tx_shift_reg[7:1]};
                    if (bit_counter == 7) begin
                        tx_state <= STOP_BIT;
                    end else begin
                        bit_counter <= bit_counter + 1;
                    end
                end else begin
                    clk_counter <= clk_counter + 1;
                end
            end
            STOP_BIT: begin
                if (clk_counter == CLKS_PER_BIT - 1) begin
                    tx_state <= IDLE;
                    tx_busy <= 1'b0;
                end else begin
                    clk_counter <= clk_counter + 1;
                end
            end
        endcase
    end
end

assign tx = (tx_state == IDLE) ? 1'b1 :
            (tx_state == START_BIT) ? 1'b0 :
            (tx_state == DATA_BITS) ? tx_shift_reg[0] :
            1'b1;  // STOP_BIT

endmodule

このUARTインターフェースを使用することで、MIPSプロセッサは外部デバイスとシリアル通信を行うことができます。

○サンプルコード17:キャッシュメモリの実装

プロセッサの性能を向上させるため、キャッシュメモリを実装することができます。

次のコードは、簡単な直接マップキャッシュの例です。

module direct_mapped_cache(
    input clk,
    input reset,
    input [31:0] address,
    input [31:0] write_data,
    input write_enable,
    input read_enable,
    output reg [31:0] read_data,
    output reg hit
);

parameter CACHE_SIZE = 256;  // キャッシュラインの数
parameter LINE_SIZE = 32;    // キャッシュラインのビット幅
parameter TAG_SIZE = 20;     // タグのビット幅

reg [LINE_SIZE-1:0] cache_data [0:CACHE_SIZE-1];
reg [TAG_SIZE-1:0] cache_tags [0:CACHE_SIZE-1];
reg [CACHE_SIZE-1:0] valid;

wire [TAG_SIZE-1:0] tag = address[31:12];
wire [7:0] index = address[11:4];
wire [3:0] offset = address[3:0];

always @(posedge clk or posedge reset) begin
    if (reset) begin
        integer i;
        for (i = 0; i < CACHE_SIZE; i = i + 1) begin
            valid[i] <= 1'b0;
            cache_tags[i] <= {TAG_SIZE{1'b0}};
            cache_data[i] <= {LINE_SIZE{1'b0}};
        end
        read_data <= 32'h00000000;
        hit <= 1'b0;
    end else begin
        if (read_enable) begin
            if (valid[index] && cache_tags[index] == tag) begin
                read_data <= cache_data[index];
                hit <= 1'b1;
            end else begin
                hit <= 1'b0;
                // ここでメインメモリからデータを読み込む処理を追加
            end
        end else if (write_enable) begin
            cache_data[index] <= write_data;
            cache_tags[index] <= tag;
            valid[index] <= 1'b1;
            hit <= 1'b1;
        end else begin
            hit <= 1'b0;
        end
    end
end

endmodule

このキャッシュメモリモジュールは、256行の直接マップキャッシュを実装しています。

各キャッシュラインは32ビットのデータと20ビットのタグを持ちます。

まとめ

Verilogを用いたMIPSプロセッサの設計と実装について、基本的な構造から応用例まで幅広く解説しました。

MIPSアーキテクチャの特徴、Verilogによるハードウェア記述の基本、各種命令の実装、パイプライン化による高速化、そして実際のアプリケーション例まで、プロセッサ設計の全体像を把握することができたかと思います。

新しい技術や手法が次々と登場するので、常に最新の情報をキャッチアップし、学び続けることが重要です。

皆さんの挑戦が、次世代のプロセッサ技術を生み出すかもしれません。頑張ってください!