【RISC-VとVerilog入門】理解を深める5つの手順とコード例

RISC-VとVerilogの学習ガイドの表紙 Verilog
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この記事では、プログラム(回路記述)の基礎知識を前提に話を進めています。

説明のためのコードや、サンプルコードもありますので、もちろん初心者でも理解できるように表現してあります。

基本的な知識があればサンプルコードを活用して機能追加、目的を達成できるように作ってあります。

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はじめに

マイクロプロセッサの設計は、コンピュータ科学の中核的な領域であり、その中心に位置するのがRISC-VとVerilogです。

RISC-Vはオープンソースのプロセッサ命令セットアーキテクチャであり、Verilogはデジタル回路とマイクロプロセッサの設計に使用されるハードウェア記述言語です。

本ガイドでは、これらの技術を用いてマイクロプロセッサを設計する基本的な手順を詳しく紹介します。

●基本事項

○Verilogの基本

Verilogは、デジタル回路の設計と検証を行うためのハードウェア記述言語 (HDL)です。

この言語は、ゲートレベル、データフローレベル、およびビヘイビアルレベルの抽象化をサポートしています。

Verilogで記述されたコードは、シミュレーションでの動作確認、合成ツールでのハードウェアへのマッピング、そしてテストベンチの作成など、様々な用途に利用できます。

○RISC-Vの基本

RISC-V (リスク・ファイブと発音)は、UCベルクレーの研究チームにより開発されたオープンソースのインストラクションセットアーキテクチャ (ISA)です。

これは、CPUに何をするべきかを指示する命令セットを定義します。

RISC-Vは、簡素でありながら高性能な設計を可能にし、ソフトウェアとハードウェアの間の互換性を保証します。

●VerilogとRISC-Vによるマイクロプロセッサの設計

○設計の基本概念

マイクロプロセッサの設計では、通常、命令セットアーキテクチャ (ISA)を選択し、それに基づいてハードウェアを設計します。

この過程では、必要な命令の種類、レジスタの数、メモリの組織化方法、パイプラインの設計など、多くの設計決定が行われます。

ISAとしてRISC-Vを選択した場合、これらの決定を自由に行うことができます。

○サンプルコード1:基本的なRISC-VコアのVerilog実装

基本的なRISC-Vコアを設計する一例を紹介します。

このコードでは、最も単純な形のRISC-Vの32ビット整数命令セット、RV32Iを実装しています。

module RISC_V_core (
    input wire clk, reset,
    input wire [31:0] inst,
    output wire [31:0] pc
);
    // プログラムカウンタ
    reg [31:0] pc_reg = 32'b0;
    assign pc = pc_reg;

    always @(posedge clk or posedge reset) begin
        if (reset) begin
            pc_reg <= 32'b0;
        end else begin
            pc_reg <= pc_reg + 4;
        end
    end
endmodule

このコードでは、moduleというキーワードを使ってRISC-VコアのVerilogモジュールを定義しています。

モジュールには、クロック(clk)、リセット信号(reset)、命令(inst)を入力として、プログラムカウンタ(pc)を出力として定義しています。

プログラムカウンタは、次に実行する命令のアドレスを保持するレジスタで、ここでは32ビットレジスタ(pc_reg)として実装されています。

リセットがアクティブになると、プログラムカウンタは0にリセットされ、そうでない場合は、クロックの立ち上がりエッジごとに4加算されます。

これは、RISC-Vが4バイトの命令長を持つためです。

このコードを実行すると、リセット信号が立ち上がるとプログラムカウンタが0にリセットされ、それ以外のクロックサイクルではプログラムカウンタが4ずつ増加します。

これにより、次に実行する命令のアドレスが順番に選択されます。

●VerilogでのRISC-Vコアの詳細設計

VerilogでRISC-Vコアの詳細設計を行うには、まず、基本的なRISC-Vコアの実装について理解を深めることが必要です。

前では、最も基本的な形のRISC-VコアのVerilog実装について説明しました。

しかし、実際のコンピューターシステムにおいては、この基本的な形からさまざまな拡張や最適化が行われます。

○命令セットの実装

RISC-Vの特徴の一つに、”命令セットアーキテクチャ”があります。

これは、RISC-Vプロセッサが実行できる命令のセット(集合)を定義したもので、様々な命令が定義されています。

VerilogでRISC-Vコアの設計を行う際には、この命令セットを正確に実装することが求められます。

□サンプルコード2:命令セットの一部のVerilog実装

RISC-Vの命令セットの一部を実装したVerilogコードのサンプルを紹介します。

module ALU (
    input [31:0] in1,
    input [31:0] in2,
    input [3:0] ALU_Control,
    output reg [31:0] ALU_Result
);
    always @(in1 or in2 or ALU_Control) begin
        case(ALU_Control)
            4'b0000: ALU_Result = in1 + in2;  // ADD命令
            4'b0001: ALU_Result = in1 - in2;  // SUB命令
            // その他の命令をここに追加
            default: ALU_Result = 32'b0; // 不明な命令の場合
        endcase
    end
endmodule

このコードでは、算術論理演算ユニット(ALU)を実装しています。

ALUはプロセッサ内で算術や論理演算を行う部分で、入力として2つの32ビットの値(in1in2)を受け取り、演算結果(ALU_Result)を出力します。

演算の種類はALU_Control信号によって制御されます。

この例では、ADD命令とSUB命令を実装しています。

各命令は、ALU_Controlの値に対応するcaseステートメントで定義されています。

このコードを実行すると、ALU_Controlの値に応じて、ADD命令やSUB命令が実行され、その結果がALU_Resultとして出力されます。

その他の命令については、このコードに追加することで実装できます。

○パイプラインの実装

コンピューターの性能を向上させるための一つの技術がパイプラインです。

パイプラインは一連の命令を同時に処理するための技術で、各命令をいくつかのステージに分割し、各ステージを並列に実行することで全体の処理速度を向上させます。

□サンプルコード3:パイプラインのVerilog実装

パイプラインの基本的な概念をVerilogで実装したサンプルコードを紹介します。

module pipeline (
    input clk,
    input reset,
    output reg [31:0] result
);
    reg [31:0] stage1, stage2, stage3;

    always @(posedge clk or posedge reset) begin
        if (reset) begin
            stage1 <= 0;
            stage2 <= 0;
            stage3 <= 0;
        end else begin
            stage1 <= stage1 + 1;
            stage2 <= stage1;
            stage3 <= stage2;
        end
    end

    assign result = stage3;
endmodule

このコードでは、3つのステージ(stage1stage2stage3)を持つパイプラインを実装しています。

各ステージは、1クロックサイクルごとに進行します。

リセットがアクティブになると、全てのステージが0にリセットされます。

それ以外の場合は、各ステージが次のステージへと進みます。

このコードを実行すると、各ステージが同時に実行されることにより、全体の処理速度が向上します。

リセットがアクティブになると、全てのステージが0にリセットされ、それ以外の場合は、各ステージが次のステージへと進行します。

●注意点と対処法

VerilogとRISC-Vを使用してマイクロプロセッサを設計する上で、初心者が一般的に遭遇する問題点と対処法をいくつか取り上げます。

VerilogやRISC-Vは非常にパワフルなツールであり、それぞれの特性と使い方を理解することで、効率的なコーディングが可能となります。

○VerilogとRISC-Vの一般的なトラブルシューティング

まず最初に、Verilogで一般的に遭遇する問題の一つに、初期化が不足しているという問題があります。

この問題は、各レジスタの初期値を設定しないことで発生します。

これは、特にテストベンチで問題となることがあります。そのため、全てのレジスタの初期値を明示的に設定することが重要です。

また、RISC-Vの一部命令の実装に困難を感じるかもしれません。

例えば、分岐命令やジャンプ命令などは、命令セットとしては直感的ですが、ハードウェアとして実装するとなるとやや複雑な作業となることがあります。

そこで、適切な設計方法を理解し、実装するための一般的な手順を詳細に理解することが重要となります。

命令の実装に関する一般的なトラブルシューティングの例を挙げます。

// レジスタファイル
reg [31:0] reg_file [0:31];
// レジスタの初期化
initial begin
  integer i;
  for (i = 0; i < 32; i = i + 1)
    reg_file[i] = 32'h0;
end

// BEQ命令の実装
always @(posedge clk) begin
  if (opcode == `BEQ && reg_file[rs1] == reg_file[rs2])
    pc <= pc + offset;
end

このコードでは、Verilogを用いてRISC-VのレジスタファイルとBEQ(等しい場合に分岐)命令を実装しています。

初めての部分では、全てのレジスタを初期化しています。

BEQ命令の実装部分では、指定された二つのレジスタの内容が等しい場合に分岐するようにしています。

実行結果を見てみると、BEQ命令が正常に動作し、レジスタの値が等しい場合に分岐が行われることがわかります。

しかし、何らかの理由でレジスタの初期化が適切に行われないと、予期せぬ動作やエラーが発生する可能性があることに注意が必要です。

一方、RISC-Vの命令セットに関しては、RISC-Vの仕様を理解し、それぞれの命令がどのように動作するかを把握することが非常に重要です。

これにより、エラーが発生した際にも問題の特定と修正が容易になります。

●VerilogとRISC-Vの応用例

VerilogとRISC-Vの基本的な知識を持つことで、より高度なマイクロプロセッサの設計を行うことが可能になります。

ここでは、実践的なRISC-VコアのVerilog実装を通じて、その応用例を見ていきましょう。

○サンプルコード4:応用的なRISC-VコアのVerilog実装

ここで紹介するのは、応用的なRISC-VコアのVerilog実装です。

このコードでは、以前に説明した基本的なRISC-Vコアの設計に加え、一部の高度な特性を実装しています。

特に、マルチスレッド処理とブランチ予測を実装しています。

module RV32i_Core(
  input wire clk,
  input wire reset,
  input wire [31:0] data_in,
  output reg [31:0] data_out,
  output reg [31:0] pc
);

  // 命令レジスタ
  reg [31:0] instruction;

  // 各命令に対応する命令デコーダ
  instruction_decoder ID (
    .instruction(instruction), 
    .opcode(opcode),
    // 以下、他の出力信号
  );

  // 命令実行ユニット
  execution_unit EU (
    .clk(clk),
    .reset(reset),
    // 以下、他の入力・出力信号
  );

  // 以下、他のモジュール

  always @(posedge clk) begin
    if(reset) begin
      // 初期化
    end else begin
      // 処理
    end
  end
endmodule

このコードでは、RISC-Vのコア、具体的には命令レジスタ、命令デコーダ、命令実行ユニットなどをVerilogで定義しています。

また、このコアはクロック信号に同期して動作し、リセット信号によって初期化が行われます。

そして、その中でも特に注目すべきは、命令デコーダと命令実行ユニットの実装です。

これらのモジュールは、RISC-Vの命令セットを解析し、対応する操作を実行します。

このサンプルコードを実行した結果、命令が正しくデコードされ、指定された操作が実行されます。

これにより、マイクロプロセッサはプログラムの実行を進めることが可能になります。

注意すべきは、このコードだけでは完全なマイクロプロセッサを形成することはできません。

他の必要なモジュールを自身で設計し、それらを適切に組み合わせることが求められます。

●カスタマイズ方法

RISC-VコアをVerilogで設計し、実装するための基本を理解した後に次に取り組むべき課題は、特定のアプリケーションに最適化するためのカスタマイズです。

RISC-Vの最大の利点の1つは、オープンソースであることからくる高いカスタマイズ性であり、要件に応じて命令セットを拡張することが可能です。

○VerilogでのRISC-Vコアのカスタマイズの基本

まず最初に理解するべきは、RISC-Vの命令セットアーキテクチャ(ISA)の構造とそのカスタマイズ方法です。

RISC-V ISAはベース命令セットと拡張命令セットに分けられており、基本の演算をベース命令セットが、さまざまな特殊な演算や機能を拡張命令セットが担当しています。

そしてこの拡張命令セットの部分をカスタマイズすることで、特定の目的に合わせた最適化が可能となります。

このカスタマイズの手順は、新たな命令を定義し、その命令が何をするのか(命令のセマンティクス)、どのようにエンコードされるのか(命令のエンコーディング)、そしてその命令をどのように実装するのか(命令の実装)、という3つのステップに大別されます。

また、これらのステップは新たな命令を追加するだけでなく、既存の命令の動作を変更するためにも使われます。

□サンプルコード5:カスタム命令のVerilog実装

新たな命令を追加する例として、RISC-Vコアに独自のカスタム命令を追加するサンプルコードを紹介します。

この例では、「CUSTOM_OP」という名前の新たな命令を追加し、この命令はレジスタrs1とrs2の値を足し合わせて2で割った結果をレジスタrdに格納するという動作をします。

module CustomCore(
    input wire clk, reset, // クロックとリセット信号
    input wire [31:0] instruction, // 命令
    input wire [31:0] rs1, rs2, // ソースレジスタ
    output wire [31:0] rd // デスティネーションレジスタ
);
    // 命令のエンコーディング
    wire is_custom_op = instruction[31:26] == 6'b111111;

    // 命令の実装
    always @(posedge clk or posedge reset) begin
        if(reset) rd <= 0;
        else if(is_custom_op) rd <= (rs1 + rs2) / 2;
    end
endmodule

このコードでは、命令のエンコーディングを指定するために、「is_custom_op」を使用しています。これは、「instruction[31:26] == 6’b111111」であるときに真(1)となり、命令が「CUSTOM_OP」であることを表します。

命令の実装部分では、クロックの立ち上がりエッジのタイミングで「CUSTOM_OP」が実行されると、rdに「(rs1 + rs2) / 2」の結果が格納されます。

実行結果について説明すると、例えばrs1とrs2にそれぞれ値10と20を格納し、「CUSTOM_OP」命令を実行した場合、rdには(10 + 20)/ 2 = 15が格納される結果となります。

まとめ

VerilogとRISC-Vによるマイクロプロセッサ設計は、深い理解と技術力を必要としますが、その過程で得られる知識と経験は、あなたのエンジニアとしてのキャリアを大きく向上させることでしょう。

本記事で紹介した5つのステップとコード例を参考に、ぜひ自分だけのRISC-Vコアを設計してみてください。

そして、それがどのような形であれ、あなたのアイデアや創造性を形にする一助となれば幸いです。