TypeScriptでWorker Threadsを使いこなす10の方法

TypeScriptとWorker Threadsを用いたプログラミングのイメージTypeScript
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この記事では、プログラムの基礎知識を前提に話を進めています。

説明のためのコードや、サンプルコードもありますので、もちろん初心者でも理解できるように表現してあります。

基本的な知識があればカスタムコードを使って機能追加、目的を達成できるように作ってあります。

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はじめに

TypeScriptは、大規模なアプリケーション開発やモジュール性を求める現代のWeb開発において、JavaScriptのスーパーセットとして人気を集めています。

そして、その中でも「Worker Threads」は、マルチスレッド処理を可能にするモジュールとして注目されています。

本記事では、初心者から上級者までがTypeScriptでのWorker Threadsの利用法を完全に理解し、効率的なマルチスレッディング処理を身につけるための10の具体的な方法を解説します。

●TypeScriptとは

TypeScriptはMicrosoftによって開発されたJavaScriptのスーパーセットであり、静的型付けやクラスベースのオブジェクト指向プログラミングなどの強力な機能を持っています。

これにより、エラーを事前に検出することができるため、開発の生産性や安全性が向上します。

○TypeScriptの特徴とメリット

静的型付け:コード内での変数や関数の型を明示的に宣言することができ、その結果、ランタイムエラーを大幅に減少させることができます。

強力なエディタサポート:インテリセンスや自動補完、リファクタリング支援など、TypeScriptは多くのエディタやIDEで豊富にサポートされています。

JavaScriptとの互換性:TypeScriptはJavaScriptのスーパーセットであるため、既存のJavaScriptコードをそのままTypeScriptのプロジェクトに統合することができます。

●Worker Threadsとは

Node.jsは、シングルスレッドのイベント駆動モデルを採用していますが、CPU密集型のタスクやIOブロックを回避するためにWorker Threadsが導入されました。

これにより、非同期処理をマルチスレッドで効率的に行うことができます。

○Node.jsにおけるマルチスレッディングの概要

Node.jsのシングルスレッドモデルは、非同期IOに最適化されていますが、CPU密集型のタスクでは限界がありました。

しかし、Worker Threadsを使用することで、複数のスレッドを活用してタスクを並行に実行することができるようになりました。

○Worker Threadsの利点

  • CPU密集型タスクや大量のデータ処理を並行して効率的に実行することができます。
  • Worker Threadsを使用することで、メインスレッドをブロックせずにバックグラウンドで処理を実行することができます。
  • 各Workerは独自のメモリとリソースを持っているため、メインスレッドとは独立して動作します。

●Worker Threadsの基本的な使い方

Worker Threadsは、Node.jsでマルチスレッドの処理を実現するためのモジュールです。

JavaScriptはシングルスレッドの言語であるため、CPUのマルチコアを活用して並列処理を行うのは困難でした。

しかし、Worker Threadsを利用することで、Node.jsでもマルチコアのパフォーマンスを最大限に引き出すことが可能になりました。

○サンプルコード1:Worker Threadsの基本的な作成と実行

このコードでは、Worker Threadsを使用して、新しいスレッドを作成し、それを実行する方法を示しています。

新しいスレッドを作成する際には、Worker クラスを利用します。

この例では、新しいスレッドでworker.jsというファイルを実行する方法を表しています。

// main.ts
import { Worker } from 'worker_threads';

// 新しいWorkerスレッドを作成して、worker.jsを実行
const worker = new Worker('./worker.js');

worker.on('message', (message) => {
    console.log('メインスレッドからのメッセージ:', message);
});

worker.on('exit', (code) => {
    if (code !== 0) {
        console.error(`Workerがエラーコード${code}で終了しました`);
    } else {
        console.log('Workerが正常に終了しました');
    }
});

// worker.js
// このコードはWorkerスレッドで実行される
import { parentPort } from 'worker_threads';

if (parentPort) {
    parentPort.postMessage('Workerスレッドからのメッセージ!');
}

この例では、main.ts内で新しいWorkerスレッドを作成し、それを実行しています。

一方、worker.jsはそのWorkerスレッド内で実行される内容を示しています。

parentPort.postMessageを使用することで、Workerスレッドからメインスレッドにメッセージを送信することができます。

このコードを実行すると、次のように表示されます。

メインスレッドからのメッセージ: Workerスレッドからのメッセージ!
Workerが正常に終了しました。

○サンプルコード2:データの受け渡しと通信

TypeScriptとWorker Threadsを組み合わせたプログラミングでは、スレッド間でのデータの受け渡しと通信が不可欠です。

ここでは、データの受け渡しとスレッド間の通信方法を詳しく解説していきます。

まず、次のサンプルコードをご覧ください。

// main.ts
import { Worker } from 'worker_threads';

const worker = new Worker('./worker.ts');

worker.on('message', (message) => {
    console.log(`メインスレッドからのメッセージ: ${message}`);
});

worker.postMessage('こんにちは、ワーカースレッド!');

// worker.ts
import { parentPort } from 'worker_threads';

parentPort?.on('message', (message) => {
    console.log(`ワーカースレッドからのメッセージ: ${message}`);
    parentPort?.postMessage('こんにちは、メインスレッド!');
});

このコードでは、main.tsはメインスレッド、worker.tsはワーカースレッドを表しています。

この例では、メインスレッドからワーカースレッドへメッセージを送信し、ワーカースレッドはそのメッセージを受け取った後、メインスレッドに返信します。

具体的には、postMessageメソッドを使ってメインスレッドからワーカースレッドへメッセージを送信しています。

ワーカースレッド側では、parentPortを利用してメインスレッドからのメッセージをリッスンし、受信したメッセージに応答するためのpostMessageメソッドを再度利用しています。

上記のコードを実行すると、次のような出力結果が得られるでしょう。

メインスレッドからワーカースレッドに「こんにちは、ワーカースレッド!」というメッセージを送信した後、ワーカースレッドから「こんにちは、メインスレッド!」と返信が返ってきます。

●Worker Threadsの応用例

JavaScriptの進化に伴い、TypeScriptやNode.jsは常に新しい方法を提供しています。特にマルチスレッド処理を行うWorker Threadsは、多くの開発者が取り入れている強力なツールの1つです。この章では、その活用方法と、実際にWorker Threadsを使用して効率的に処理を行うためのサンプルコードを紹介します。

○サンプルコード3:CPU密集型タスクの最適化

一般的にJavaScriptはシングルスレッドの言語であり、CPU密集型のタスクを実行する際にはパフォーマンスのボトルネックが生じやすいです。

しかし、Worker Threadsを使用することで、これらのタスクをバックグラウンドで実行し、メインスレッドのブロックを回避することができます。

このコードでは、Worker Threadsを使ってCPU密集型の処理を効率的に行っています。

この例では、フィボナッチ数列を計算して、結果をメインスレッドに返す処理を行っています。

// main.ts
import { Worker } from 'worker_threads';

function calculateFibonacciInWorker(n: number) {
  return new Promise<number>((resolve, reject) => {
    const worker = new Worker('./fibonacciWorker.ts', {
      workerData: n
    });

    worker.on('message', resolve);
    worker.on('error', reject);
    worker.on('exit', (code) => {
      if (code !== 0) reject(new Error(`Worker stopped with exit code ${code}`));
    });
  });
}

calculateFibonacciInWorker(10).then(console.log).catch(console.error);

// fibonacciWorker.ts
import { parentPort, workerData } from 'worker_threads';

function fibonacci(n: number): number {
  if (n <= 1) return n;
  return fibonacci(n - 1) + fibonacci(n - 2);
}

const result = fibonacci(workerData);
parentPort?.postMessage(result);

上記のサンプルコードでは、まずメインスレッドでcalculateFibonacciInWorker関数を定義しています。

この関数は、Workerスレッドを生成して、フィボナッチ数列の計算を依頼します。

そして、計算が完了したら、その結果をメインスレッドに返します。

fibonacciWorker.tsはWorkerスレッドで実行されるコードで、実際にフィボナッチ数列を計算するfibonacci関数を含んでいます。

このサンプルコードを実行すると、メインスレッドはフィボナッチ数列の計算をWorkerスレッドに委託し、その結果を受け取ってコンソールに出力します。

こうすることで、CPU密集型のタスクもメインスレッドをブロックすることなく効率的に処理することができます。

○サンプルコード4:大量のデータを非同期に処理

TypeScriptとWorker Threadsの組み合わせによる非同期処理は、大量のデータを取り扱う際の有効な手段となります。

特に、一度に多くのデータを処理しなければならない場面では、メインスレッドをブロックすることなく、バックグラウンドでの並列処理が可能になります。

このコードでは、Worker Threadsを使って大量のデータを非同期に処理する例を表しています。

この例では、大量の数字を非同期にソートするタスクをWorkerで行い、その結果をメインスレッドに返しています。

import { Worker, isMainThread, parentPort, workerData } from 'worker_threads';

// ワーカースレッドとして動作する関数
function workerFunction() {
    // workerDataからデータを受け取る
    const data = workerData;

    // データをソート
    data.sort((a: number, b: number) => a - b);

    // ソートが完了したらメインスレッドに結果を返す
    parentPort?.postMessage(data);
}

if (isMainThread) {
    // メインスレッドでの動作

    // 大量のデータを生成(ここでは例として100000個の乱数を生成)
    const massiveData = Array.from({ length: 100000 }, () => Math.floor(Math.random() * 1000000));

    // ワーカーを新規に作成
    const worker = new Worker(__filename, { workerData: massiveData });

    // ワーカーからのメッセージを受け取る
    worker.on('message', sortedData => {
        console.log('Data has been sorted!');
    });

    // エラーハンドリング
    worker.on('error', err => {
        console.error('Error from worker:', err);
    });

    // ワーカーが終了した際の処理
    worker.on('exit', code => {
        if (code !== 0) {
            console.error(`Worker stopped with exit code ${code}`);
        }
    });
} else {
    // ワーカースレッドでの動作
    workerFunction();
}

このコードでは、まず大量の乱数データを生成し、それをWorkerスレッドに渡してソートしてもらう構造となっています。

ソートが完了したら、結果はメインスレッドに返されます。

この処理を実行すると、「Data has been sorted!」というメッセージがコンソールに表示されるのを確認できます。

この時、メインスレッドはブロックされずに他のタスクを続行することができます。

この方法を採用することで、大量のデータを効率よく、かつ非同期に処理することが可能となります。

特に、ウェブアプリケーションやサーバーサイドのプログラムで、大量のデータを処理する必要がある場合には、この方法が非常に有効です。

○サンプルコード5:イベントリスナを用いた通知システム

TypeScriptとWorker Threadsを使用した際のプログラム開発において、イベント駆動型の処理は極めて有用です。

ここでは、Worker Threadsを利用して、イベントリスナを通じた通知システムを構築する方法を詳しく解説します。

まず、基本的なコードの構成を見ていきましょう。

// main.ts
import { Worker } from 'worker_threads';

const worker = new Worker('./worker.ts');

worker.on('message', (message) => {
    console.log('メインスレッドからのメッセージ:', message);
});

worker.postMessage('メインスレッドからWorkerへの初期メッセージ');

このコードでは、worker_threadsモジュールからWorkerをインポートしています。

この例では、新しいWorkerを./worker.tsから作成しています。

そして、worker.onメソッドを使って、Workerからのメッセージをリッスンしています。

最後に、worker.postMessageメソッドを使用して、Workerにメッセージを送信しています。

次に、Workerの中身を見てみましょう。

// worker.ts
import { parentPort } from 'worker_threads';

if (parentPort) {
    parentPort.on('message', (message) => {
        console.log('Workerからのメッセージ:', message);
        parentPort?.postMessage('Workerからメインスレッドへの応答:' + message);
    });
}

こちらのコードでは、worker_threadsモジュールからparentPortをインポートしています。

このparentPortを使って、メインスレッドからのメッセージをリッスンして、それに応答するメッセージを返す処理を行っています。

これらのコードを実行すると、次のような結果が得られます。

メインスレッドとWorkerがお互いにメッセージを送受信する様子が確認できます。

具体的には、「メインスレッドからWorkerへの初期メッセージ」というメッセージがメインスレッドからWorkerに送信され、その後、Workerがこのメッセージを受け取って「Workerからメインスレッドへの応答:メインスレッドからWorkerへの初期メッセージ」という応答メッセージをメインスレッドに返します。

このように、Worker Threadsを用いることで、メインスレッドとWorker間でのメッセージの送受信を柔軟に行うことができます。

特にイベント駆動型の処理や通知システムを構築する際には、このメカニズムが非常に役立ちます。

○サンプルコード6:Worker Threadsでのエラーハンドリング

Worker Threadsを使用して非同期処理を行う際には、エラーハンドリングも非常に重要です。

エラーハンドリングを適切に実装することで、予期しないバグやシステムのダウンタイムを減少させ、より安定したシステムを構築することができます。

このセクションでは、TypeScriptとWorker Threadsを用いて、エラーハンドリングを実装する具体的な方法を解説します。

まず、基本的なWorkerのコードを考えます。

このコードでは、エラーを意図的にスローして、メインスレッドでそのエラーをキャッチして処理する例を見ていきます。

// worker.ts
import { parentPort } from 'worker_threads';

if (parentPort) {
  parentPort.on('message', (msg) => {
    if (msg === 'error') {
      throw new Error('エラーが発生しました!');
    } else {
      parentPort.postMessage('正常に処理されました');
    }
  });
}

このコードでは、Workerが受け取るメッセージが'error'の場合、エラーをスローしています。

この例では、メッセージを受け取るたびにエラーの有無を確認しています。

次に、メインスレッドでの処理を見ていきます。

// main.ts
import { Worker } from 'worker_threads';

const worker = new Worker('./worker.ts');

worker.on('message', (msg) => {
  console.log(msg);
});

worker.on('error', (err) => {
  console.log('エラーが捕捉されました:', err.message);
});

worker.postMessage('error');

メインスレッドでは、Workerからのメッセージをリッスンする他に、'error'イベントもリッスンしています。

これにより、Worker内で発生したエラーをメインスレッドで捕捉し、適切に処理することができます。

上記のメインスレッドのコードを実行すると、次のような出力が得られます。

エラーが捕捉されました: エラーが発生しました!

このように、Worker内でのエラーをメインスレッドで捕捉し、適切にハンドリングすることが可能です。

ただ、Worker内でのエラーハンドリングは、メインスレッドでのエラーハンドリングとは異なります。

例えば、Worker内でtry...catchを用いてエラーをキャッチした場合、そのエラーはメインスレッドの'error'イベントリスナには伝播しません。

したがって、Worker内のエラーを外部に伝えるためには、明示的にメインスレッドへメッセージとして送信する必要があります。

次のサンプルコードは、Worker内でtry...catchを使用し、エラー情報をメインスレッドに伝える方法を表しています。

// worker.ts
import { parentPort } from 'worker_threads';

if (parentPort) {
  parentPort.on('message', (msg) => {
    try {
      if (msg === 'error') {
        throw new Error('エラーが発生しました!');
      }
      parentPort.postMessage('正常に処理されました');
    } catch (err) {
      parentPort.postMessage({ error: true, message: err.message });
    }
  });
}

このコードでは、エラーが捕捉されると、エラー情報を含むオブジェクトをメインスレッドに送信しています。

○サンプルコード7:Worker間の通信の最適化

TypeScriptのWorker Threadsは、Web Workerに似ているが、Node.jsのコンテキストで動作することが前提となっています。

ここでは、複数のWorker間での通信を最適化する方法に焦点を当てて説明します。

通常、Worker間でのデータの受け渡しは、メッセージのやり取りを行うことで実現されます。

しかし、大量のデータや高頻度の通信が発生する場合、シリアライゼーションやデシリアライゼーションのコストが高まり、パフォーマンスのボトルネックとなる可能性があります。

そこで、このサンプルコードでは、SharedArrayBufferという共有メモリを使用して、効率的にWorker間での通信を行う方法を取り上げます。

import { Worker, isMainThread, parentPort, workerData } from 'worker_threads';

// 主スレッド
if (isMainThread) {
    const worker = new Worker(__filename, {
        workerData: null
    });

    const sharedBuffer = new SharedArrayBuffer(10 * Int32Array.BYTES_PER_ELEMENT);
    const array = new Int32Array(sharedBuffer);

    // SharedArrayBufferを使ってデータをセット
    for (let i = 0; i < 10; i++) {
        array[i] = i;
    }

    // WorkerにSharedArrayBufferを送信
    worker.postMessage(sharedBuffer);

    worker.on('message', (data) => {
        console.log(`Received from worker: ${data}`);
    });
} else {
    parentPort!.on('message', (sharedBuffer: SharedArrayBuffer) => {
        const array = new Int32Array(sharedBuffer);

        // SharedArrayBufferからデータを読み取る
        let sum = 0;
        for (let i = 0; i < 10; i++) {
            sum += array[i];
        }

        parentPort!.postMessage(`Sum of data: ${sum}`);
    });
}

このコードでは、SharedArrayBufferを使ってデータの共有を行っています。

この例では、主スレッド側でInt32Arrayにデータをセットし、その後WorkerにSharedArrayBufferを渡しています。

Worker側では、共有されたBufferからデータを読み取り、その合計を計算して主スレッドに返しています。

SharedArrayBufferは、複数のWorker間でメモリを共有することが可能です。

これにより、データのコピーが不要となり、通信のパフォーマンスが向上します。

また、注意する点として、SharedArrayBufferは直接変更が可能なため、データの一貫性を確保する際のロックのような機構が必要になる場合があります。

しかし、このサンプルでは、単純なデータの受け渡しを示しているため、そのような機構は導入していません。

実行すると、次のような出力が得られます。

主スレッドがWorkerにSharedArrayBufferを渡し、Worker側でデータの合計が計算されます。

その後、計算結果が主スレッドに返され、コンソールに「Sum of data: 45」と表示されます。

これは、0から9までの整数の合計が45であるためです。

このように、Worker間の通信を最適化するための技術や方法はいくつか存在しますが、今回紹介したSharedArrayBufferを使用する方法は、特に大量のデータのやり取りが必要な場面で非常に有効です。

○サンプルコード8:リソースの適切なクローズ処理

リソースの適切な管理は、アプリケーションのパフォーマンスやメモリ使用量に大きな影響を与えるため、非常に重要です。

特に、Worker Threadsを使用して非同期に処理を行う際には、不要になったリソースやWorkerを適切に閉じ、解放することが必要です。

このコードではWorker Threadsの終了と、それに伴うリソースの解放を表しています。

この例では、一定のタスクを完了した後、Workerを適切に終了させ、リソースを解放しています。

// worker.tsの内容
import { parentPort } from 'worker_threads';

if (parentPort) {
    parentPort.on('message', (msg) => {
        if (msg === 'start') {
            // 何らかのタスクを実行
            parentPort.postMessage('done');
        }
    });
}

// main.tsの内容
import { Worker } from 'worker_threads';

const worker = new Worker('./worker.ts');

worker.on('message', (msg) => {
    if (msg === 'done') {
        console.log('Workerのタスクが完了しました。');
        worker.terminate();  // Workerの終了
    }
});

worker.postMessage('start');

このコードでは、main.tsでWorkerを作成し、’start’メッセージを送信してWorkerのタスクを開始します。

worker.ts側では、メッセージを受け取った際にタスクを実行し、タスクが完了したら’done’というメッセージを返します。

main.ts側では、’done’メッセージを受け取ったら、Workerを終了させるためのterminate()メソッドを呼び出します。

この方法を用いると、Workerが不要になったタイミングで、適切に終了させ、リソースを解放することができます。

実行後の結果としては、コンソールに「Workerのタスクが完了しました。」と表示されることが期待されます。

そして、Workerは適切に終了され、システムのリソースが解放されます。

このように、Worker Threadsを利用する際には、タスクが終了した後にリソースのクリーンアップを忘れずに行うことが、アプリケーションの安定性やパフォーマンスを保つために重要です。

特に、大規模なアプリケーションや長時間動作するサービスを開発する際には、このようなリソースの管理は欠かせません。

○サンプルコード9:Worker Threadsのパフォーマンス測定

Worker Threadsを使用する際のパフォーマンスの違いを計測することは、そのメリットを具体的に体感するために不可欠です。

特に、大量のデータを処理する場合やCPUを酷使するような処理を行う場合には、Worker Threadsを使用することで大きな効果が期待できるのです。

ここでは、パフォーマンスの測定方法について詳しく解説し、それを表すサンプルコードも提供します。

このコードでは、TypeScriptを使ってWorker Threadsを使用し、その実行時間を計測します。

この例では、非常に時間がかかる計算をメインスレッドとWorker Threadsでそれぞれ実行し、それぞれの実行時間を比較しています。

// worker.ts
const { parentPort } = require('worker_threads');

function heavyCalculation() {
    let result = 0;
    for (let i = 0; i < 1e9; i++) {
        result += i;
    }
    return result;
}

parentPort.on('message', (message) => {
    if (message === 'start') {
        const result = heavyCalculation();
        parentPort.postMessage(result);
    }
});

// main.ts
const { Worker } = require('worker_threads');

function runWorker() {
    return new Promise((resolve, reject) => {
        const worker = new Worker('./worker.ts');
        worker.on('message', resolve);
        worker.on('error', reject);
        worker.postMessage('start');
    });
}

async function main() {
    console.log("メインスレッドでの計算開始");
    const mainStartTime = Date.now();
    // ここで同様の重たい計算を実行
    heavyCalculation();
    const mainEndTime = Date.now();
    console.log(`メインスレッドでの計算時間: ${mainEndTime - mainStartTime}ms`);

    console.log("Worker Threadsでの計算開始");
    const workerStartTime = Date.now();
    await runWorker();
    const workerEndTime = Date.now();
    console.log(`Worker Threadsでの計算時間: ${workerEndTime - workerStartTime}ms`);
}

main();

このコードの実行時、まずメインスレッドでheavyCalculation関数が呼び出され、その実行時間を計測します。

次に、同じ計算をWorker Threadsで実行し、その実行時間も計測します。

実際にコードを動かすと、メインスレッドでの計算とWorker Threadsでの計算の時間の違いを比較することができます。

多くの場合、Worker Threadsを使用した方が高速に計算が完了することが確認できるでしょう。

○サンプルコード10:クラスベースのWorkerの作成と使用

TypeScriptを使用すると、JavaScriptの動的性質に静的型付けの安全性を追加することができます。

特にクラスを使用して、オブジェクト指向プログラミングの利点を活用する際に、TypeScriptの強力な型システムが真価を発揮します。

Worker Threadsを用いた非同期処理も、クラスベースのアプローチで実装することができます。

ここでは、TypeScriptを使用して、クラスベースのWorkerを作成し、その使用方法を解説します。

このコードでは、TypeScriptを使用してWorkerをクラスとして定義しています。

具体的には、MyWorkerという名前のクラスを定義し、その中にWorkerで実行されるロジックを記述しています。

// myWorker.ts
import { parentPort } from 'worker_threads';

class MyWorker {
    constructor() {
        if (parentPort) {
            parentPort.on('message', this.handleMessage.bind(this));
        }
    }

    private handleMessage(data: any): void {
        if (parentPort) {
            parentPort.postMessage(`受信したデータ: ${data}`);
        }
    }
}

new MyWorker();

この例では、MyWorkerクラスのコンストラクタ内でparentPortmessageイベントのリスナを設定しています。

handleMessageメソッドは、メッセージを受け取ったときの動作を定義するもので、受信したデータをそのまま返すシンプルなロジックとなっています。

次に、作成したクラスベースのWorkerを利用する方法を見てみましょう。

// main.ts
import { Worker } from 'worker_threads';

const worker = new Worker('./myWorker.js');

worker.on('message', (msg: string) => {
    console.log(`メインスレッドからのメッセージ: ${msg}`);
});

worker.postMessage('こんにちは、Worker!');

main.tsでは、先ほど定義したmyWorker.tsをWorkerとして実行します。

メインスレッドからWorkerにメッセージを送信し、そのレスポンスを受け取るロジックが記述されています。

このコードの実行結果として、次のような出力が得られることが期待されます。

メインスレッドからのメッセージ: 受信したデータ: こんにちは、Worker!

●注意点と対処法

TypeScriptでWorker Threadsを活用する際、パフォーマンス向上を期待する一方で、その利用に際しては幾つかの注意点が存在します。

効果的なマルチスレッディング処理を実現するためにも、これらの注意点を理解し、適切に対処することが必要です。

○Workerの作成コスト

Worker Threadsの利用は非同期処理の効率化を図るものですが、毎回新しいWorkerを作成するコストも無視できません。

頻繁にWorkerを作成・破棄するよりは、再利用可能なWorkerを維持し、必要に応じてメッセージを送受信する構造を検討することが推奨されます。

○メモリの共有制限

Worker内からは主スレッドの変数や関数に直接アクセスすることはできません。

これは、複数のスレッドが同時にデータにアクセスすることによる競合やデータの不整合を避けるためのものです。

データの受け渡しは、メッセージパッシングを使用して行います。

○エラーハンドリングの重要性

Worker内でのエラーは、主スレッドでは捕捉できません。

そのため、Worker内部で適切なエラーハンドリングを実装して、エラー情報を主スレッドに伝える仕組みを持つことが大切です。

○Worker Threads使用時の一般的なトラブルシューティング

Worker Threadsを使用している際には、いくつかの一般的なトラブルが考えられます。

それでは、そのようなトラブルの原因と対応策をサンプルコードを交えて詳細に解説します。

□Workerからのメッセージが主スレッドに届かない

このような場合、メッセージの送信・受信の処理や、Workerのライフサイクルに問題がある可能性が考えられます。

このコードでは、主スレッドからWorkerにメッセージを送り、そのレスポンスを待つシンプルな例を示しています。

この例では、postMessageを使ってWorkerにメッセージを送信し、Workerからのレスポンスをonmessageで受け取っています。

// main.ts
import { Worker } from 'worker_threads';

const worker = new Worker('./worker.ts');

worker.onmessage = (event) => {
    console.log('主スレッド:', event.data);
};

worker.postMessage('こんにちは、Worker!');

// worker.ts
parentPort.on('message', (msg) => {
    console.log('Worker:', msg);
    parentPort.postMessage('こんにちは、主スレッド!');
});

もしメッセージが届かない場合は、postMessageonmessageの実装を再確認すると良いでしょう。

●カスタマイズ方法

Worker Threadsを用いた開発を進めていく際、要件や処理の複雑性に応じてカスタマイズすることが求められます。

ここでは、Worker Threadsのオプションと設定の調整方法を中心に、さらに進化させる手法を詳細に解説します。

○Worker Threadsのオプションと設定の調整

TypeScriptでWorker Threadsを最大限に活用するためのカスタマイズ方法を解説します。

Worker Threadsは、その設定やオプションを調整することで、パフォーマンスや動作を最適化することが可能です。

このコードでは、Workerを新しく作成する際のオプションを設定しています。

この例では、resourceLimitsを使ってWorkerのリソース使用量を制限しています。

import { Worker, isMainThread, parentPort } from 'worker_threads';

if (isMainThread) {
    const worker = new Worker(__filename, {
        workerData: {},
        resourceLimits: {
            maxYoungGenerationSizeMb: 32,
            maxOldGenerationSizeMb: 64
        }
    });

    worker.on('message', (msg) => {
        console.log('メインスレッド:', msg);
    });

    worker.postMessage('Hello Worker!');
} else {
    parentPort?.on('message', (msg) => {
        console.log('ワーカースレッド:', msg);
        parentPort?.postMessage('こんにちは、メインスレッド!');
    });
}

上記のコードは、Worker ThreadsのオプションresourceLimitsを使用して、新しいワーカーのリソース制限を設定しています。

具体的には、新しい世代のメモリサイズを32MBに、古い世代のメモリサイズを64MBに制限しています。

このコードを実行すると、ワーカースレッドが起動し、メインスレッドから送られたメッセージを受信します。

その後、ワーカースレッドからメインスレッドへ応答メッセージが送信されます。

このコードの特徴として、リソースの制限を設定することで、ワーカースレッドのメモリ使用量を管理することが挙げられます。

これにより、大量のデータや複雑な処理を行うワーカースレッドの動作を安定させることが期待できます。

また、オプションの調整によって、Worker Threadsの動作環境を柔軟にカスタマイズすることが可能となり、処理の最適化やリソースの節約が実現できます。

まとめ

TypeScriptでのWorker Threadsの活用は、非同期処理やマルチスレッディングの強力なツールとして、多くの開発者にとって欠かせない存在となっています。

本記事では、その基本的な使い方から応用例、カスタマイズ方法まで幅広く紹介しました。

これらの知識をもとに、効率的なマルチスレッディング処理を実現し、高品質なアプリケーションやサービスの開発に役立ててください。