はじめに
スマートフォンのアプリケーション開発において、バックグラウンド処理は必須の知識です。
特にiOSアプリを開発する上でObjective-Cを用いる場合、どのようにしてアプリがバックグラウンドに入ったかを判定し、それに応じた処理を行うかは、アプリのパフォーマンスを大きく左右します。
この記事を読むことで、初心者であってもObjective-Cを用いたバックグラウンド処理の基本から応用までを理解し、実際にコードを書く際に役立つ知見を得ることができます。
●Objective-Cとは
Objective-Cは、AppleのmacOSやiOSで使用されるプログラミング言語です。
C言語にオブジェクト指向の機能を追加した形で作られており、iOSアプリ開発では長らく標準の言語として使用されてきました。
近年はSwiftにその座を譲りつつありますが、既存の多くのアプリやライブラリはObjective-Cで書かれているため、今もなお重要性を持っています。
○Objective-Cの概要
Objective-Cは、C言語の直接的な拡張であり、Smalltalkのオブジェクト指向概念を取り入れています。
これにより、C言語の効率的なパフォーマンスと、オブジェクト指向言語の柔軟性を兼ね備えています。
また、Objective-Cにはメッセージ送信という特徴があり、これはオブジェクト間のコミュニケーションをより動的にします。
さらに、Runtime機能によりプログラムの実行中に情報を変更したり、挙動を確認することができるため、デバッグ時に非常に強力なツールとなります。
○Objective-Cでできること
Objective-Cを学ぶことで、アプリケーションの幅広い機能開発が可能になります。
GUIの設計、データの保存、ネットワーク通信などの基本的な処理から、マルチスレッド処理やバックグラウンド処理など、より高度なテクニックまで幅広く対応することができます。
また、Appleの提供する豊富なフレームワークやAPIを利用することで、セキュアでユーザーフレンドリーなアプリケーションを作成することができるでしょう。
●バックグラウンド処理とは
バックグラウンド処理とは、アプリケーションがユーザーの直接的な操作を受けずに行う作業のことを指します。
ユーザーが他のアプリケーションを使用している間や、デバイスの画面がオフになっている時でも、アプリケーションは特定のタスクを継続することが可能です。
この機能は、例えばメールの受信、音楽の再生、位置情報の更新など、ユーザーに途切れないサービスを提供するために重要です。
iOSにおいてバックグラウンド処理は特に制御が厳しく、システムリソースの節約とユーザー体験の保護のために、アプリがバックグラウンドで実行できる作業には限りがあります。
そのため、iOSアプリを開発する際には、バックグラウンド処理の管理に特に注意を払う必要があります。
○バックグラウンド処理の基本
バックグラウンド処理の基本を理解するには、iOSのアプリケーション状態遷移を把握することが不可欠です。
iOSではアプリケーションが「アクティブ」「バックグラウンド」「サスペンド」という三つの状態を持っています。
アクティブ状態はアプリが前面で実行されている状態、バックグラウンドはアプリが画面の背面で実行されている状態、そしてサスペンドはアプリが一時停止している状態を指します。
アプリケーションがバックグラウンドに移行する際には、特定の処理を迅速に完了させるか、またはその処理を後で再開できるように状態を保存する必要があります。
これは、「applicationDidEnterBackground:」や「applicationWillEnterForeground:」といった特定のデリゲートメソッドを通じて行われます。
○iOSのバックグラウンド処理の重要性
iOSデバイスは限られたバッテリー寿命と計算リソースを持っており、これらを有効に使うことは開発者にとって大きな課題です。
バックグラウンド処理を適切に管理することは、アプリケーションのバッテリー消費を抑え、ユーザーにとっての不快な体験を減らすことに直結します。
また、バックグラウンド更新やバックグラウンドフェッチなどの技術を利用することで、アプリケーションのデータを最新の状態に保ち、ユーザーがアプリを開いた瞬間に必要な情報をすぐに得られるようにすることができます。
●バックグラウンド状態の判定法
バックグラウンド状態の判定は、iOSアプリケーション開発において、アプリの挙動を適切にコントロールするための基本です。
アプリケーションが前景または背景で実行されているかを正確に判定し、その情報に基づいて適切な処理を実行することが求められます。
Objective-Cでは、アプリケーションのライフサイクルを管理するいくつかのメソッドを通じて、これらの判定を行います。
アプリケーションがバックグラウンドに入る際には、’UIApplication’クラスの’applicationDidEnterBackground:’メソッドが呼ばれます。
また、アプリが前景に戻るときには’applicationWillEnterForeground:’メソッドが呼ばれるのが一般的です。
これらのメソッドを適切に実装することで、バックグラウンド状態の検出と管理が可能となります。
○判定法1:アプリの状態変化の監視
アプリの状態変化を監視するためには、’UIApplicationDelegate’プロトコルが提供するデリゲートメソッドを利用します。
これにより、アプリケーションの状態が変わるたびに、特定のコードが実行されるように設定できます。
‘applicationDidEnterBackground:’と’applicationWillEnterForeground:’は、このデリゲートメソッドの良い例です。
○判定法2:バックグラウンド状態の利用
アプリケーションがバックグラウンドに入った際に特定のタスクを続行するには、バックグラウンドタスクの登録を行います。
これは’beginBackgroundTaskWithExpirationHandler:’メソッドを使って行われ、システムによってアプリが終了させられる前に、このタスクが完了するか、あるいは手動で終了させる必要があります。
○判定法3:バックグラウンドタスクの実行
特定のバックグラウンドタスクを実行するためには、’performFetchWithCompletionHandler:’や’handleEventsForBackgroundURLSession:completionHandler:’といったメソッドを用いてバックグラウンド更新を行います。
これらのメソッドを実装することで、アプリがバックグラウンドでのデータフェッチやファイルのダウンロードなどの処理を行えるようになります。
●Objective-Cでバックグラウンド判定のサンプルコード7選
Objective-Cでのバックグラウンド判定の方法を探求する際には、実際にどのようにコードが機能するのかを見ることが非常に有効です。
ここでは、バックグラウンド状態の判定や管理に役立つサンプルコードを7つ紹介し、それぞれのコードがどのように機能するのかを詳細に解説します。
○サンプルコード1:アプリ状態のリスナー設定
Objective-Cでは、アプリケーションの状態変化を監視するためにNSNotificationCenterを使用することができます。
下記のコードは、アプリケーションがバックグラウンドに入ったときに通知を受け取るリスナーを設定する方法を表しています。
このコードにより、アプリケーションがバックグラウンドに入ると、ログにその旨が出力されます。
NSNotificationCenterは、特定のイベントが発生した際に、登録されたメソッドを呼び出すメカニズムを提供しており、状態の変化を効率的にハンドルすることが可能です。
○サンプルコード2:バックグラウンド時のタスク完了処理
アプリケーションがバックグラウンドに入った際に、開始されたタスクを適切に終了させるには、バックグラウンドタスクの完了をシステムに通知する必要があります。
下記のサンプルコードは、バックグラウンドでのダウンロードタスクを開始し、その完了を管理する方法を表しています。
このコードは、バックグラウンドでの長いタスクを安全に管理し、システムの制限時間内に完了させるか、またはタスクが中断される前にクリーンアップを行うための処理を設定しています。
これにより、リソースを適切に管理しつつ、ユーザーに影響を与えることなくバックグラウンド処理を完了させることができます。
○サンプルコード3:バックグラウンドフェッチの実装
iOSアプリでは、定期的に新しいコンテンツを取得するバックグラウンドフェッチ機能を実装することができます。
これにより、アプリがアクティブでない時にも、最新の情報をバックグラウンドで取得し、次回アプリを開いた時に最新の状態をユーザーに提供することが可能になります。
下記のサンプルコードは、バックグラウンドフェッチを設定する一般的な方法を表しています。
このコードを実装することで、アプリはシステムによって定期的にバックグラウンドで起動され、新しいデータの取得を試みます。
フェッチの結果に応じて、適切な’completionHandler’を呼び出すことが重要です。
これにより、システムはアプリがバックグラウンドでどのような処理を行ったかを知ることができ、アプリのパフォーマンスを最適化するための情報を得ることができます。
○サンプルコード4:ローカル通知のスケジュール
ローカル通知は、特定の時刻にユーザーに情報を提供する強力な方法です。
バックグラウンドで実行されているアプリからユーザーに直接アラートを送ることが可能です。
下記のサンプルコードは、簡単なローカル通知をスケジュールする方法を表しています。
この関数を呼び出すと、60秒後にローカル通知がトリガーされます。
‘fireDate’には通知を送りたい日時を’NSDate’オブジェクトとして設定し、’alertBody’には通知メッセージの本文を設定します。
‘applicationIconBadgeNumber’を使用して、アプリアイコンに表示されるバッジ数を指定することもできます。
これにより、アプリがバックグラウンドにある間でもユーザーが通知を受け取ることができ、アプリケーションへの関与を促すことが可能になります。
○サンプルコード5:バックグラウンド更新タスクの利用
iOSでは、バックグラウンドで定期的にコンテンツを更新する機能をサポートしています。
これは、アプリがバックグラウンドにあるときでも、定期的に新しいデータを取得し、ユーザーが次にアプリを開いたときに最新の情報を提供できるようにするために有用です。
下記のコードスニペットは、バックグラウンド更新タスクの利用方法を表しています。
このコードでは、performFetchWithCompletionHandler:
メソッドを通じてバックグラウンドでデータのフェッチを行い、フェッチ処理が完了したら結果に応じて適切なcompletionHandler
を呼び出しています。
このメカニズムを使用すると、アプリケーションはユーザーに対して透明性を保ちながら、常に最新のデータを保持できるようになります。
○サンプルコード6:音声再生アプリのバックグラウンド管理
音声再生アプリケーションでは、バックグラウンドでの音声再生をサポートするために、特定のバックグラウンドモードの設定が必要です。
下記のコードは、バックグラウンドで音声を再生する設定を行う方法を表しています。
このコードにより、アプリケーションはAVAudioSession
を使用してオーディオの再生を管理し、バックグラウンドでの音声再生を可能にします。
エラーチェックを行うことで、オーディオセッションの設定中に発生する可能性のある問題に対処できます。
○サンプルコード7:位置情報更新のバックグラウンド処理
位置情報サービスを利用するアプリケーションは、バックグラウンドでユーザーの位置情報を更新することが多々あります。
下記のコードスニペットは、バックグラウンドで位置情報を更新する方法を表しています。
このコードは、CLLocationManager
を用いてユーザーの現在地を取得し、新しい位置情報が得られるたびにデリゲートメソッドdidUpdateLocations:
が呼び出されるようになっています。
バックグラウンドで位置情報を継続的に更新することで、ナビゲーションや位置に基づいたリマインダーなどの機能を実現できます。
●バックグラウンド処理の注意点と対処法
バックグラウンド処理を実装する際には、いくつかの注意点があり、これらを理解し適切に対処することが必要です。
iOSはバックグラウンドでの活動に多くの制限を設けており、これらを遵守しないとアプリが予期せず終了される原因となります。
○注意点1:バッテリー消費に関する配慮
バックグラウンド処理はデバイスのバッテリー消費に大きく影響するため、必要最小限のタスクのみをバックグラウンドで行うように心がけるべきです。
具体的には、バックグラウンドタスクを開始する前にユーザーが電源に接続しているか、バッテリー残量が十分にあるかを確認し、条件に応じて処理を続けるかどうかを判断することが推奨されます。
○注意点2:処理時間の制限
iOSではバックグラウンド処理の実行時間に厳しい制限が設けられています。
アプリはバックグラウンドに移行した際にシステムから少量の実行時間を与えられますが、その時間内に処理を完了させる必要があります。
この制限を超えると、アプリは強制終了される可能性があります。
そのため、可能な限り迅速にタスクを終了させるか、またはbeginBackgroundTaskWithExpirationHandler:
メソッドを使用して実行時間の延長を要求すると良いでしょう。
○注意点3:ユーザー設定とプライバシーの尊重
ユーザーの設定やプライバシーを尊重することは、バックグラウンド処理においても重要です。
例えば、位置情報サービスを使用する場合、アプリがバックグラウンドで位置情報にアクセスすることをユーザーが許可しているかを確認し、許可されていない場合はその処理を実行しないようにする必要があります。
ユーザーに明示的な同意を得ることで、信頼と透明性を確保することが可能です。
○対処法:制限を超えるバックグラウンド処理の管理
制限時間を超えるバックグラウンド処理を行う必要がある場合には、beginBackgroundTaskWithExpirationHandler:
を用いてバックグラウンドタスクを適切に管理する必要があります。
これにより、システムがアプリを終了させる前に、適切なクリーンアップ処理を行うことができます。
また、タスクが終了したらendBackgroundTask:
を呼び出して、システムにタスクの完了を通知することが重要です。
これはシステムリソースの効率的な使用にもつながります。
●カスタマイズ方法
バックグラウンド処理のカスタマイズは、アプリの使用状況やユーザーのニーズに合わせて、より細かくコントロールすることを可能にします。
カスタマイズの範囲は、アプリケーションの特定の機能に限定される場合もあれば、デバイスのリソース利用やバッテリー消費の最適化を目指す場合もあります。
ここでは、バックグラウンド処理のカスタマイズ方法を紹介します。
○バックグラウンド処理のカスタマイズ
バックグラウンド処理のカスタマイズを行う際は、まず、アプリケーションのInfo.plistファイルでバックグラウンドモードを設定する必要があります。
例えば、音声再生や位置情報更新など、特定のバックグラウンド処理を許可する設定を行います。
次に、必要な機能に応じたコードを実装し、それらのサービスがバックグラウンドで正しく動作するようにします。
アプリケーションの性質上、バックグラウンドで継続して実行する必要のある処理の量を調整し、不要な処理は省くか、または適切なタイミングで終了させるロジックを組み込むことが重要です。
これにより、リソースの無駄遣いを防ぎ、アプリのパフォーマンスを向上させることができます。
○ユーザーのニーズに合わせたバックグラウンド処理の設計
アプリのターゲットとするユーザーグループのニーズを理解し、それに応じてバックグラウンド処理の挙動を設計することが大切です。
たとえば、位置情報を頻繁に更新することが重要なナビゲーションアプリの場合、位置情報サービスの精度と更新頻度をユーザーが設定できるようにするオプションを提供することで、ユーザーにとっての利便性とアプリのエネルギー消費のバランスを取ることができます。
バックグラウンド処理のカスタマイズは、ユーザーが直面する様々なシナリオや使用条件に対応するための柔軟性をアプリに与えることにもつながります。
ユーザーがアプリの設定メニューでバックグラウンド処理に関する設定をカスタマイズできるようにすることも、一つの方法です。
まとめ
この記事を通じて、Objective-Cを使用したiOSアプリケーション開発におけるバックグラウンド処理の基本から応用まで、様々な判定法とその実装方法について理解を深めることができたかと思います。
バックグラウンド処理はアプリの使い勝手を大きく向上させる一方で、適切な実装とリソースの管理が不可欠です。
バッテリー消費の最適化、処理時間の制限への対応、ユーザーのプライバシー保護は、特に注意すべき点として挙げられました。
本ガイドが、これからObjective-Cを学ぶ初心者や、すでに開発を進めているプロの開発者にとっても、有用な情報源となり、実際のアプリケーション開発において役立つことを願っています。