読み込み中...

【TypeScript】override修飾子で使う12のサンプルコードを紹介!

TypeScriptのoverride修飾子のイラスト入り解説サムネイル TypeScript
この記事は約34分で読めます。

【サイト内のコードはご自由に個人利用・商用利用いただけます】

この記事では、プログラムの基礎知識を前提に話を進めています。

説明のためのコードや、サンプルコードもありますので、もちろん初心者でも理解できるように表現してあります。

本記事のサンプルコードを活用して機能追加、目的を達成できるように作ってありますので、是非ご活用ください。

※この記事は、一般的にプロフェッショナルの指標とされる『実務経験10,000時間以上』を満たす現役のプログラマチームによって監修されています。

※Japanシーモアは、常に解説内容のわかりやすさや記事の品質に注力しております。不具合、分かりにくい説明や不適切な表現、動かないコードなど気になることがございましたら、記事の品質向上の為にお問い合わせフォームにてご共有いただけますと幸いです。
(送信された情報は、プライバシーポリシーのもと、厳正に取扱い、処分させていただきます。)

はじめに

TypeScriptは、JavaScriptに静的型付けやオブジェクト指向の特性を追加したスーパーセット言語です。その魅力のひとつが、強力な型システムと継承機能にあります。

そして、継承機能を最大限に活用するためのキーワードが、今回の主題である「override修飾子」です。

この記事では、TypeScriptでのoverride修飾子の使い方を12の具体的なサンプルコードと共に解説していきます。

初心者から上級者まで、TypeScriptのoverride修飾子に関する知識を深めるための一助となることを目指します。

●TypeScriptとは

TypeScriptは、Microsoftによって開発された、JavaScriptのスーパーセットであるプログラム言語です。

つまり、JavaScriptのコードはそのままTypeScriptとしても動作する、互換性を持っています。

しかし、TypeScriptにはJavaScriptにはない多くの機能が追加されています。

○TypeScriptの基本的な特徴

❶静的型付け

TypeScriptでは、変数や関数の引数に型を指定することができます。

これにより、コードのバグを早期に発見しやすくなります。

❷クラスとインターフェース

オブジェクト指向プログラミングの特性を持ち、クラスやインターフェースを使って効率的にコードを設計することが可能です。

❸進化したツールセット

TypeScriptはIDEやエディタとの連携が強化されており、コードの補完やリファクタリングが容易に行えます。

このコードでは、TypeScriptの基本的な静的型付けの機能を用いて、変数の型を明示しています。

let name: string = "Taro";
let age: number = 25;
let isStudent: boolean = true;

このコードを実行すると、各変数には指定された型に合った値が代入されるため、期待通りの動作となります。

○TypeScriptが人気の理由

❶安全性の向上

型システムにより、予期せぬエラーを防ぐことができます。

これにより、大規模なプロジェクトでも安心して開発を進めることができます。

❷良好な開発体験

進化したツールセットやエディタのサポートにより、開発の効率が大きく向上します。

特に、コード補完や型に基づくエラーチェックは、日々の開発の品質を高めてくれます。

❸JavaScriptの拡張性

すでに存在するJavaScriptのライブラリやフレームワークとの互換性を持ちながら、新しい機能を追加できるのが大きな魅力となっています。

●override修飾子の基本理解

TypeScriptの中で非常に重要な役割を果たすのが、override修飾子です。

多くのプログラム言語には継承の概念が存在し、継承を活用することで既存のクラスのメソッドやプロパティを再利用し、新しいクラスに追加や修正を施すことができます。

そして、その継承したクラスの中で元のメソッドやプロパティを上書きしたいときに使うのが、このoverride修飾子となります。

○override修飾子の役割

override修飾子の主な役割は、親クラスのメソッドやプロパティを子クラスで上書きする際に、その上書きが意図的なものであることを明示的に表すことです。

これにより、意図せず名前が重複したメソッドやプロパティが存在してしまうというミスを防ぐことができます。

例えば、次のようなコードがあるとします。

class 親 {
    あいさつ() {
        console.log('こんにちは、親クラスです!');
    }
}

class 子 extends 親 {
    あいさつ() {
        console.log('こんにちは、子クラスです!');
    }
}

このコードでは、クラスがクラスのあいさつメソッドを上書きしていますが、override修飾子がないため、もしクラスで間違えてメソッド名を変えた場合、それがすぐにわからないかもしれません。

このような場面でoverride修飾子を使用することで、メソッドの上書きが意図的であることを表すことができます。

○なぜoverride修飾子が必要なのか

一見、override修飾子は単なる冗長なもののように思えるかもしれませんが、実際には非常に有用なものです。

特に大規模なプロジェクトやチームでの開発において、override修飾子は以下のような理由で必要とされます。

❶明確な意図の表し

override修飾子を使用することで、子クラスでのメソッドやプロパティの上書きが意図的であることを明示的に表せます。

これにより、他の開発者がコードを読む際にも、その意図がはっきりと伝わります。

❷間違いの防止

もしoverride修飾子をつけずに親クラスのメソッドやプロパティを上書きしようとすると、TypeScriptはエラーを出してくれます。

これにより、間違って別のメソッドやプロパティ名を使ってしまうというようなミスを未然に防ぐことができます。

❸安全なコードの保証

親クラスのメソッドやプロパティを上書きする際には、元のメソッドやプロパティの振る舞いや仕様を正確に理解する必要があります。

override修飾子を使用することで、その上書きが安全であることを確認しながらコードを書くことができます。

●override修飾子の使い方

TypeScriptにおいて、クラスのメソッドを継承し、その動作を変更する際に使用するのが、override修飾子です。

この修飾子は、子クラスにおいて、継承したメソッドを再定義(オーバーライド)することを明示的に表すためのものです。

TypeScriptの開発者たちは、オブジェクト指向プログラミングの基本概念である継承とオーバーライドを安全に、そしてわかりやすく使用するための方法として、override修飾子を導入しました。

この修飾子の導入により、継承関係の中で意図しないメソッドの上書きを防ぐことができ、バグを早期に発見することができます。

では、override修飾子の基本的な使い方について、サンプルコードと共に詳しく解説していきましょう。

○サンプルコード1:基本的なoverrideの使用方法

// 親クラスAnimalの定義
class Animal {
    // speakメソッドの定義
    speak() {
        return '何かしゃべる';
    }
}

// 子クラスDogが親クラスAnimalを継承
class Dog extends Animal {
    // speakメソッドをオーバーライド
    override speak() {
        return 'ワンワン';
    }
}

このコードでは、親クラスとしてAnimalを定義し、その中にspeakというメソッドを持っています。

そして、Dogという子クラスがこのAnimalクラスを継承し、speakメソッドをオーバーライドしています。

子クラスDogspeakメソッドをオーバーライドする際に、override修飾子を前置しています。

これにより、このメソッドが意図的にオーバーライドされていることが明示され、もし親クラスにspeakというメソッドが存在しない場合や、シグネチャが異なる場合には、コンパイルエラーが発生します。

このコードを実行すると、次のような結果となります。

const dog = new Dog();
console.log(dog.speak()); // 出力: ワンワン

このコードでは、Dogクラスのインスタンスを作成し、そのspeakメソッドを呼び出すと、オーバーライドされたDogクラスのspeakメソッドが実行され、「ワンワン」という出力がされます。

これにより、同名のメソッドが親クラスと子クラスの両方に存在する場合、子クラスのメソッドが優先して呼び出されることが確認できます。

○サンプルコード2:継承されたメソッドの上書き

TypeScriptの強力な機能の一つに「override修飾子」があります。

この修飾子を使うことで、継承されたクラスのメソッドを確実に上書きすることができるのです。

今回は、この継承されたメソッドをどのようにして上書きするのか、サンプルコードを通して徹底的に解説していきます。

まず、簡単なクラスの継承とそのメソッドを作成してみましょう。

class 親クラス {
    メソッド(): void {
        console.log('親クラスのメソッドです');
    }
}

class 子クラス extends 親クラス {
    メソッド(): void {
        console.log('子クラスのメソッドで上書きされました');
    }
}

const インスタンス = new 子クラス();
インスタンス.メソッド(); // 出力結果: 子クラスのメソッドで上書きされました

このコードでは、親クラスというクラスを作成し、そこにメソッドという関数を定義しています。

そして、子クラスを親クラスから継承し、同じ名前のメソッドを定義することで、親クラスのメソッドを上書きしています。

結果として、インスタンス化したときに子クラスのメソッドが呼ばれるため、「子クラスのメソッドで上書きされました」という出力が得られます。

しかし、上記のコードでは、もし親クラスのメソッド名を変更してしまうと、子クラスで意図していたオーバーライドは正しく行われなくなります。

これを防ぐために、TypeScriptでは「override修飾子」を提供しています。

override修飾子を使用してメソッドを上書きする例を紹介します。

class 親クラス {
    メソッド(): void {
        console.log('親クラスのメソッドです');
    }
}

class 子クラス extends 親クラス {
    override メソッド(): void {
        console.log('子クラスのメソッドで上書きされました');
    }
}

const インスタンス = new 子クラス();
インスタンス.メソッド(); // 出力結果: 子クラスのメソッドで上書きされました

このコードを実行すると、以前と同様の結果が得られるのですが、子クラスでのメソッド定義部に「override」という修飾子が追加されています。

この修飾子を使用することで、もし親クラスで対象のメソッドが存在しない場合、コンパイルエラーとして検出されるようになります。

これにより、開発者は継承の関係やメソッドの上書きに関するミスを早期に発見し、修正することが可能になります。

○サンプルコード3:オーバーライドで引数を変更する例

TypeScriptのoverride修飾子を使用することで、親クラスのメソッドを子クラスでオーバーライドする際の安全性を高めることができます。

override修飾子の強力な機能の一つは、引数の変更を行った際の振る舞いをカスタマイズできることです。

// 親クラス
class Animal {
    move(distance: number): void {
        console.log(`動物は${distance}メートル移動しました。`);
    }
}

// 子クラス
class Bird extends Animal {
    // 引数を変更してオーバーライド
    override move(distance: number, canFly: boolean): void {
        if (canFly) {
            console.log(`鳥は空を飛んで${distance}メートル移動しました。`);
        } else {
            super.move(distance); // 親クラスのmoveメソッドを呼び出す
        }
    }
}

このコードでは、Animalクラスにはmoveというメソッドが定義されており、動物が移動する距離を表示する役割があります。

次に、このAnimalクラスを継承したBirdクラスでは、moveメソッドをオーバーライドしていますが、引数としてcanFlyという新しいパラメータを追加しています。

この新しい引数canFlyは、鳥が飛ぶことができる場合にtrue、できない場合にfalseを受け取ります。

canFlytrueの場合は、Birdクラスのmoveメソッド内で飛ぶ動作のメッセージを表示します。

canFlyfalseの場合は、親クラスのmoveメソッドを呼び出すことで、通常の移動メッセージを表示します。

このコードを実行すると、鳥が飛ぶことができる場合とできない場合の動作が次のようになります。

例えば、次のコードを追加して実行すると、

const sparrow = new Bird();
sparrow.move(10, true); // 鳥は空を飛んで10メートル移動しました。
sparrow.move(3, false); // 動物は3メートル移動しました。

このように、オーバーライドを使用することで、親クラスのメソッドの振る舞いを子クラスで柔軟にカスタマイズすることができます。

特に、引数を変更することで、より詳細な制御や新しい機能を追加することが可能になります。

○サンプルコード4:返り値の型をオーバーライドする

TypeScriptでは、クラスのメソッドの返り値の型をオーバーライドすることができます。

このオーバーライド機能を利用することで、子クラスでのメソッドの実装を柔軟に行うことが可能です。

具体的なサンプルコードを見てみましょう。

class 基本クラス {
  メソッド(): any {
    return "これは基本クラスです";
  }
}

class 派生クラス extends 基本クラス {
  override メソッド(): string {
    return "これは派生クラスです";
  }
}

このコードでは、基本クラスメソッドという名前のメソッドがあります。

その返り値の型はanyです。

しかし、派生クラスでこのメソッドをオーバーライドする際に、返り値の型をstringにしています。

override修飾子を用いることで、このようにメソッドの返り値の型を変更してオーバーライドすることが可能となります。

このコードを実行すると、派生クラスのインスタンスからメソッドを呼び出すと「これは派生クラスです」という文字列が返されます。

一方で、基本クラスのインスタンスから同じメソッドを呼び出すと「これは基本クラスです」という文字列が返されることとなります。

○サンプルコード5:オーバーライドしたメソッドの呼び出し方

TypeScriptでのクラスの継承とオーバーライドを効果的に利用することで、より柔軟なコードを実現することができます。

特に、親クラスのメソッドを子クラスでオーバーライドした場合、その呼び出し方は非常に重要です。

オーバーライドしたメソッドを正確に呼び出す際のサンプルコードを紹介します。

class Animal {
    sound(): void {
        console.log("いくつかの動物の音");
    }
}

class Dog extends Animal {
    // 親クラスのsoundメソッドをオーバーライド
    override sound(): void {
        console.log("ワンワン");
    }
}

const dog = new Dog();
dog.sound();  // "ワンワン" と出力される

このコードでは、まず基底クラスとしてAnimalクラスを定義しています。

このクラスにはsoundというメソッドがあり、継承される子クラスでオーバーライドを前提としています。

次に、DogクラスがAnimalクラスを継承し、soundメソッドをオーバーライドして独自の動作を実装しています。

このコードを実行すると、Dogクラスのインスタンスを生成し、そのsoundメソッドを呼び出すことで、”ワンワン”という出力を得ることができます。

これは、Dogクラスでオーバーライドされたメソッドが優先的に呼び出されるためです。

また、このサンプルコードでは、override修飾子を使用してsoundメソッドをオーバーライドしている点に注意してください。

これにより、もし親クラスに同名のメソッドが存在しない場合や、オーバーライドする形式が正しくない場合は、コンパイラによってエラーが検出されるので安全です。

●override修飾子の応用例

override修飾子は、TypeScriptの強力なツールの一つです。

この修飾子を理解し適切に利用することで、より安全で読みやすいコードを書くことが可能となります。

ここでは、override修飾子を使った応用的な例を詳しく解説していきます。

○サンプルコード6:オーバーライドを利用した多態性の実装

多態性はオブジェクト指向プログラミングの中核的な概念の一つであり、異なるクラスのオブジェクトで同じインターフェイスを共有することができます。

この特性を利用して、オーバーライドを活用することで異なる動作を持つメソッドを持つことができます。

このコードでは、動物を表すAnimalクラスとそのサブクラスであるDogクラス、Catクラスを用意しています。

Animalクラスにはsoundメソッドが定義され、それぞれのサブクラスでこのメソッドをオーバーライドしています。

class Animal {
    sound(): string {
        return "何かの音";
    }
}

class Dog extends Animal {
    override sound(): string {
        return "ワンワン";
    }
}

class Cat extends Animal {
    override sound(): string {
        return "ニャー";
    }
}

このコードを実行すると、Dogクラスのインスタンスがsoundメソッドを呼び出すと”ワンワン”という文字列を返します。

同様に、Catクラスのインスタンスがsoundメソッドを呼び出すと”ニャー”という文字列を返します。

これにより、異なるクラスのオブジェクトが同じメソッド名を持ちながら、異なる動作をする多態性を実現しています。

こうした多態性の利用は、異なるオブジェクトを一貫したインターフェイスで扱うことができるため、コードの再利用性や拡張性が向上します。

また、override修飾子を使うことで、サブクラスが明示的に親クラスのメソッドをオーバーライドしていることが分かりやすくなり、安全性が向上します。

オブジェクトを生成して、それぞれの動物の鳴き声を表示すると、次のようになります。

const dog = new Dog();
console.log(dog.sound());  // ワンワン

const cat = new Cat();
console.log(cat.sound());  // ニャー

○サンプルコード7:深い階層の継承でのoverride利用例

TypeScriptのoverride修飾子を効果的に使うためには、継承の階層が深くなった場合にもその利点を理解し活用することが重要です。

深い階層の継承では、親クラスから何段階も子クラスが派生するケースを想定します。

そのような複雑な継承関係においても、override修飾子を適切に使用することで、予期せぬバグを防ぐことができます。

// 基底クラス
class 動物 {
    さえずる() {
        return "なんらかの音";
    }
}

// 一段階目の派生クラス
class 鳥 extends 動物 {
    override さえずる() {
        return "ピーピー";
    }
}

// 二段階目の派生クラス
class ペンギン extends 鳥 {
    override さえずる() {
        return "クワックワ";
    }
}

このコードでは、まず動物という基底クラスがあり、それを継承したクラス、さらにそのクラスを継承したペンギンクラスと、3つのクラスが階層的に継承関係を持っています。

それぞれのクラスでさえずるメソッドがオーバーライドされており、それぞれの動物の特徴的な鳴き声が返されるように実装されています。

このコードを実行すると、ペンギンのインスタンスからさえずるメソッドを呼び出すと、”クワックワ”というペンギン特有の鳴き声が得られます。

親クラスである動物クラスの同名のメソッドは呼び出されません。

このように、override修飾子を利用することで、複数の階層に渡る継承関係においても、予期した動作を保証することができます。

○サンプルコード8:抽象クラスでのoverride使用例

TypeScriptでのプログラミングにおいて、抽象クラスを使用する際にoverride修飾子をどのように利用するかを理解することは非常に重要です。

特に、基底クラスに抽象メソッドが定義されている場合、派生クラスでそのメソッドを具体的に実装する際にはoverrideを使用する必要があります。

ここでは、具体的な抽象クラスを用いたoverrideの使用例を取り上げ、その動作を詳細に解説します。

// 抽象クラス Animal を定義
abstract class Animal {
    // 抽象メソッド speak を定義
    abstract speak(): string;
}

// 抽象クラス Animal を継承した Dog クラスを定義
class Dog extends Animal {
    // Animal クラスの speak メソッドをオーバーライド
    override speak(): string {
        return "ワンワン";
    }
}

// インスタンスを生成して、オーバーライドしたメソッドを呼び出す
const dog = new Dog();
console.log(dog.speak());

このコードでは、まず抽象クラスAnimalを定義しています。

その中にはspeakという抽象メソッドがあります。

このメソッドは具体的な実装がされていないため、派生クラスであるDogクラスでその実装を行う必要があります。

次に、DogクラスではAnimalクラスから継承したspeakメソッドをoverride修飾子を用いてオーバーライドしています。

具体的な実装としては、”ワンワン”という文字列を返すようにしています。

最後に、Dogクラスのインスタンスを生成し、オーバーライドしたspeakメソッドを呼び出しています。

これにより、コンソールに”ワンワン”と表示されることが期待されます。

このコードを実行すると、”ワンワン”が表示される結果となります。

これはDogクラスでオーバーライドしたspeakメソッドが正しく呼び出されたことを表しています。

○サンプルコード9:オーバーライドとアクセス修飾子

TypeScriptのoverride修飾子は非常に有用な機能の一つで、これを理解することで、クラスの継承をより柔軟に、そして安全に行えるようになります。

今回は、オーバーライドとアクセス修飾子との関係に焦点を当てて、この組み合わせの重要性と利点を深堀りします。

まず、オーバーライドとは、基底クラス(親クラス)に存在するメソッドを、派生クラス(子クラス)で上書きすることを指します。

そして、アクセス修飾子とは、その名前の通り、クラスやメソッド、プロパティのアクセス範囲を制限する修飾子のことを指します。

TypeScriptではprivateprotectedpublicの3つの主要なアクセス修飾子が存在します。

それでは、オーバーライドとアクセス修飾子を組み合わせてどのように使用するのか、具体的なサンプルコードを見ていきましょう。

class 基底クラス {
    public メソッド(): void {
        console.log("基底クラスのメソッド");
    }

    protected プロテクテッドメソッド(): void {
        console.log("基底クラスのプロテクテッドメソッド");
    }
}

class 派生クラス extends 基底クラス {
    // オーバーライドとpublicアクセス修飾子
    public override メソッド(): void {
        console.log("派生クラスでオーバーライドされたメソッド");
    }

    // オーバーライドとprotectedアクセス修飾子
    protected override プロテクテッドメソッド(): void {
        console.log("派生クラスでオーバーライドされたプロテクテッドメソッド");
    }
}

const obj = new 派生クラス();
obj.メソッド();

このコードでは、基底クラスという親クラスが存在し、このクラスにはpublic修飾子が付与されたメソッドと、protected修飾子が付与されたプロテクテッドメソッドがあります。

そして、派生クラスという子クラスでは、これらのメソッドをオーバーライドしています。

最後に、派生クラスのインスタンスを作成し、メソッドを呼び出すことで、”派生クラスでオーバーライドされたメソッド”というメッセージが表示されます。

これにより、派生クラスでのオーバーライドが正しく機能していることが確認できます。

このコードを実行すると、次のメッセージが表示されます。

派生クラスでオーバーライドされたメソッド

つまり、親クラスのメソッドが子クラスで正しくオーバーライドされ、子クラスのメソッドが優先されて呼び出されたことが確認できます。

○サンプルコード10:オーバーロードとオーバーライドの違い

TypeScriptでコーディングを進める中で、オーバーロードとオーバーライドという2つの用語に出会うことがあるでしょう。

これらの名前は似ているため、混同しやすいですが、その役割と適用場面はまったく異なります。

ここでは、この2つの概念の違いを詳しく見ていきましょう。

□オーバーロードとは

オーバーロードは、同じクラス内で同じメソッド名を持つが、異なる引数のセットや異なる引数の型を持つメソッドを複数定義することです。

class SampleClass {
    // 数字を2つ受け取るメソッド
    display(x: number, y: number): void {
        console.log(`数字: ${x} と ${y}`);
    }

    // 文字列を受け取るメソッド
    display(str: string): void {
        console.log(`文字列: ${str}`);
    }
}

このコードでは、SampleClass内でdisplayメソッドが2つ定義されています。

1つ目は2つの数字を引数として受け取り、2つ目は1つの文字列を引数として受け取ります。

□オーバーライドとは

オーバーライドは、サブクラスでスーパークラスに定義されているメソッドを新しい実装で上書きすることを指します。

class ParentClass {
    display(): void {
        console.log("これは親クラスのメソッドです");
    }
}

class ChildClass extends ParentClass {
    override display(): void {
        console.log("これは子クラスでオーバーライドされたメソッドです");
    }
}

このコードでは、ChildClassParentClassを継承しています。

ChildClass内で、displayメソッドがオーバーライドされ、新しいメッセージを出力するように変更されています。

このコードを実行すると、ChildClassのインスタンスからdisplayメソッドを呼び出すと、”これは子クラスでオーバーライドされたメソッドです”というメッセージが出力されることがわかります。

□オーバーロードとオーバーライドの主な違い

  • オーバーロードは、同じ名前のメソッドを異なる引数で複数定義することです。
  • オーバーライドは、継承関係にあるクラスで、子クラスが親クラスのメソッドを新しい内容で上書きすることです。

この違いを理解することで、TypeScriptのコードをより効果的に記述する手助けとなります。

特に大規模なプロジェクトやチームでの開発において、正確な用語の使用はコミュニケーションをスムーズにします。

○サンプルコード11:オーバーライドで独自のエラーメッセージを表示

オーバーライドの魅力の一つは、親クラスで定義されたメソッドの挙動を子クラスで変更する能力にあります。

これにより、エラーメッセージや例外の取り扱いを独自のものに変えることが可能となります。

ここでは、親クラスで定義されたメソッドを子クラスでオーバーライドし、特定の条件下で独自のエラーメッセージを表示する方法を解説します。

// 親クラスの定義
class Animal {
    protected name: string;

    constructor(name: string) {
        this.name = name;
    }

    // スピードを出力するメソッド
    displaySpeed(speed: number): void {
        if (speed < 0) {
            throw new Error('速度は0以上でなければなりません。');
        }
        console.log(`${this.name}の速度は${speed}km/hです。`);
    }
}

// 子クラスの定義
class Bird extends Animal {
    constructor(name: string) {
        super(name);
    }

    // 親クラスのメソッドをオーバーライド
    override displaySpeed(speed: number): void {
        if (speed < 0 || speed > 100) {
            throw new Error('鳥の速度は0以上100以下でなければなりません。');
        }
        console.log(`${this.name}の速度は${speed}km/hです。`);
    }
}

このコードでは、AnimalクラスにdisplaySpeedというメソッドが定義されています。

このメソッドは、引数として受け取ったspeedが0未満の場合、エラーをスローします。

一方、Birdクラスでは、このメソッドをオーバーライドしており、鳥の速度が0未満または100以上の場合にエラーをスローするように変更されています。

このコードを実行すると、次のような結果が得られます。

まず、親クラスのインスタンスを作成し、メソッドを呼び出す場合の挙動を確認しましょう。

const animal = new Animal('動物');
animal.displaySpeed(50);  // 動物の速度は50km/hです。
// animal.displaySpeed(-5); これを実行すると、速度は0以上でなければなりません。というエラーメッセージが表示されます。

次に、子クラスのインスタンスを作成し、オーバーライドされたメソッドを呼び出す場合の挙動を確認します。

const bird = new Bird('スズメ');
bird.displaySpeed(60);  // スズメの速度は60km/hです。
// bird.displaySpeed(105); これを実行すると、鳥の速度は0以上100以下でなければなりません。というエラーメッセージが表示されます。

○サンプルコード12:オーバーライドを活用した設計パターン

オーバーライドはプログラムの設計段階で非常に役立つツールの1つです。

特に、設計パターンを実装する際にオーバーライドの技術を活用することで、より柔軟かつ効果的なコード設計が可能となります。

ここでは、オーバーライドを活用した設計パターン、具体的には「テンプレートメソッドパターン」を取り上げ、その実装方法をTypeScriptのコードとともに詳しく解説していきます。

テンプレートメソッドパターンは、アルゴリズムの骨格を定義し、いくつかのステップをサブクラスに任せて具体的な実装を行うデザインパターンです。

このパターンは、アルゴリズムの構造を変更することなく、サブクラスの振る舞いを変更することが可能となります。

テンプレートメソッドパターンをTypeScriptで実装したサンプルコードを紹介します。

abstract class AbstractClass {
    // テンプレートメソッド
    finalAlgorithm(): void {
        this.step1();
        this.step2();
        this.step3();
    }

    step1(): void {
        console.log("共通の処理1");
    }

    abstract step2(): void;

    step3(): void {
        console.log("共通の処理3");
    }
}

class ConcreteClassA extends AbstractClass {
    // step2をオーバーライド
    step2(): void {
        console.log("ConcreteClassAの処理2");
    }
}

class ConcreteClassB extends AbstractClass {
    // step2をオーバーライド
    step2(): void {
        console.log("ConcreteClassBの処理2");
    }
}

const instanceA = new ConcreteClassA();
instanceA.finalAlgorithm();

const instanceB = new ConcreteClassB();
instanceB.finalAlgorithm();

このコードでは、AbstractClassという抽象クラスを定義しています。

このクラスには、アルゴリズムの骨格となるfinalAlgorithmメソッドが定義されており、その中には3つのステップ(step1, step2, step3)が含まれています。

step2は抽象メソッドとして定義されているため、具体的な処理はサブクラスであるConcreteClassAConcreteClassBでオーバーライドして実装されています。

このコードを実行すると、次のような結果が表示されます。

ConcreteClassAのインスタンスを使ってアルゴリズムを実行すると、

共通の処理1
ConcreteClassAの処理2
共通の処理3

という結果が得られます。一方で、ConcreteClassBのインスタンスを使って同じアルゴリズムを実行すると、

共通の処理1
ConcreteClassBの処理2
共通の処理3

という結果が得られます。

●注意点と対処法

TypeScriptのoverride修飾子を使用する際には、特定の注意点やトラブルの原因になり得る点を知っておくことが重要です。

ここでは、そのような注意点や対処法を詳しく解説していきます。

○オーバーライドする際の型の一致

TypeScriptのoverride修飾子を使用する際、継承先のクラスでオーバーライドするメソッドの引数の型や返り値の型は、親クラスのものと一致させる必要があります。

もし型が一致しない場合、コンパイルエラーが発生します。

例えば次のサンプルコードを見てください。

class 親クラス {
    サンプルメソッド(引数: number): string {
        return `数字は${引数}です。`;
    }
}

class 子クラス extends 親クラス {
    // これはコンパイルエラーとなります
    override サンプルメソッド(引数: string): number {
        return 引数.length;
    }
}

このコードでは、親クラスサンプルメソッドは、引数としてnumber型を受け取り、string型を返すように宣言されています。

しかし、子クラスでオーバーライドしようとしたサンプルメソッドは、引数としてstring型を受け取り、number型を返すように宣言されているため、型が一致しないコンパイルエラーが発生します。

オーバーライドを正しく行うためには、メソッドの型宣言を正確に親クラスと一致させる必要があります。

正確な型を使うことで、意図しない動作やバグを防ぐことができます。

○親クラスのメソッドと子クラスのメソッドの関係性

override修飾子を使用する際、親クラスのメソッドと子クラスのメソッドの関係性を理解することは非常に重要です。

具体的には、子クラスでオーバーライドしたメソッドは、親クラスの同名のメソッドと完全に置き換わるため、親クラスのメソッドを直接呼び出すことはできません。

しかし、特定の状況では親クラスのメソッドを呼び出したい場合があります。

そのような場合には、superキーワードを使用して、親クラスのメソッドを呼び出すことができます。

下記のサンプルコードで詳しく説明します。

class 親クラス {
    サンプルメソッド(): string {
        return `親クラスのメソッドです。`;
    }
}

class 子クラス extends 親クラス {
    override サンプルメソッド(): string {
        return `子クラスのメソッドです。${super.サンプルメソッド()}`;
    }
}

const オブジェクト = new 子クラス();
console.log(オブジェクト.サンプルメソッド());

このコードを実行すると、”子クラスのメソッドです。親クラスのメソッドです。”という出力が得られます。

子クラスでオーバーライドしたサンプルメソッド内で、super.サンプルメソッド()と記述することで、親クラスのサンプルメソッドを呼び出しています。

○オーバーライドを過度に使用しない理由

オーバーライドは非常に強力な機能であり、多様性やカスタマイズの実現に役立ちます。

しかし、過度に使用すると、コードの可読性や保守性が低下する恐れがあります。

特に、多層にわたるクラスの継承が行われる際や、多数のメソッドがオーバーライドされる際には、どのクラスでどのメソッドが定義されているのかを追いかけるのが困難になり、バグの原因となることも考えられます。

また、過度なオーバーライドは、将来の変更や拡張に柔軟に対応できないコードを生む可能性もあります。

そのため、オーバーライドを使用する際には、適切な範囲や回数での利用を心がけることが重要です。

オーバーライドを使用する際には、次の点を考慮すると良いでしょう。

  1. 実際にオーバーライドが必要かどうかを検討する。
    継承を利用せずに、他の設計方法で要件を満たすことができるかどうかを確認します。
  2. オーバーライドするメソッドの数や内容を最小限に抑える。
    必要最低限のオーバーライドで、要件を満たせる設計を目指します。
  1. コードのドキュメンテーションを適切に行う。
    オーバーライドしたメソッドの動作や意図を明確にするコメントやドキュメンテーションを記述します。

以上のポイントを考慮することで、オーバーライドを適切に使用することができるでしょう。

●カスタマイズ方法

TypeScriptを活用している中で、override修飾子はオブジェクト指向の実装に非常に役立つ機能の一つです。

しかし、実際のプロジェクトにおいて、このoverride修飾子をどのようにカスタマイズして使用するかは、開発者の知恵と経験が問われるポイントとなるでしょう。

○オーバーライドを活用したプロジェクトのカスタマイズ

TypeScriptのプロジェクトにおいて、継承関係が複雑になる場合や、特定の処理を子クラスごとに変更したい場合にoverride修飾子の利用が考えられます。

ここでは、具体的なカスタマイズの方法と実用例を通して、オーバーライドの魅力とその適用例を解説します。

□既存のライブラリやフレームワークの振る舞いの変更

例えば、あるライブラリのメソッドが期待する振る舞いと異なる場合や、特定の条件下でのみ異なる動作をさせたい場合には、オーバーライドを活用することで対応が可能です。

このコードでは、ライブラリのあるメソッドを継承して、新たな振る舞いを追加しています。

class LibraryClass {
    display() {
        console.log("ライブラリのメソッド");
    }
}

class CustomizedClass extends LibraryClass {
    override display() {
        super.display();
        console.log("カスタマイズした処理");
    }
}

const obj = new CustomizedClass();
obj.display();

このコードを実行すると、まず”ライブラリのメソッド”が表示され、次に”カスタマイズした処理”が表示されます。

このように、オーバーライドを活用して、既存のメソッドの動作をカスタマイズすることができます。

□異なるプラットフォームや環境に合わせた実装の分岐

複数のプラットフォームや環境で動作するアプリケーションを開発する際、特定の環境に特化した処理をオーバーライドを利用して実装することも考えられます。

例えば、デスクトップとモバイル環境での表示処理を変えたい場合のサンプルコードは次の通りです。

class Application {
    display() {
        console.log("基本の表示処理");
    }
}

class DesktopApp extends Application {
    override display() {
        console.log("デスクトップ向けの表示");
    }
}

class MobileApp extends Application {
    override display() {
        console.log("モバイル向けの表示");
    }
}

const desktop = new DesktopApp();
desktop.display();  // デスクトップ向けの表示

const mobile = new MobileApp();
mobile.display();  // モバイル向けの表示

このコードでは、基本の表示処理を継承しつつ、デスクトップとモバイルそれぞれの環境に特化した表示処理をオーバーライドしています。

このように、環境やプラットフォームに応じて処理を変更する際にも、オーバーライドは大変役立ちます。

まとめ

TypeScriptを利用する開発者にとって、override修飾子の理解と適切な使用方法は非常に重要です。

この記事では、そのoverride修飾子の使い方や応用、注意点、カスタマイズ方法を詳細に解説しました。

全体を通して、この記事はTypeScriptのoverride修飾子を理解し、効果的に使用するための実践的なガイドとなっています。

初心者から上級者まで、この記事を読めば一段とスキルアップが可能です。

日々の開発に役立てていただきたく思います。